2010/08/12

かまうぃたちの夜(復刻版)

第3章 夕食かぁ…
まだロウソクに火をつけて炊き出しを始めたばかりだったが、真理と食堂へと向かった。
食堂のテーブルにはすでに、ナイフやフォークが突き刺さっていた。
女の子三人組やさっき着いた夫婦も、もう先に椅子に座っていた。
真理がさっさと座ったテーブルの下に、ぼくもさっと入る。
蹴られたので仕方なく椅子に座る。
テーブルの真ん中にはクリスマスツリーを模したキャンドルが立っている。その揺らめく小さな炎が、窓の外を見つめる真理の横顔を、ほの赤く照らしている。
「スプレー缶があれば火炎放射器が…」
「透、3日は喋らないで」
………泣いた。
「どうしたの?そんなに泣いたりしちゃって。そんなに感動した?」
………やれやれ。
リーさんの奥さん、今日子さんと、バイトのグリーンさんの二人が、料理を各テーブルに運ぶ。
泊り客は、ぼく達、三人娘、そして遅れてきた夫婦・・・。だけかと思っていたのだが、もう一人、こんなペンションに似つかなわしくない客がいた。
食堂の隅、壁に半分溶け込んでる、ブリーフの男。食事中だというのにシャツもズボンも着ず、あまつさえ蝶ネクタイまでしている。スキー客にはもちろん、仕事で来ている営業マンにすら見えない。
……変態。それがぼくの第一印象だった。
が、よく考えたら、変態が一人でペンションに来るとも思えない。おとなしくスープをすすってるいるその様子を見ていると、みかけと違ってバーローな人なのかもしれないとも思えてくる。
いずれにしてもぼく達の前に料理が運ばれてくると、そんなことはすっかりどうでもよくなってしまった。
「おいしい!」
真理はテーブルに噛り付くと、声をもらした。セルロースとリグニンの見事にマッチングした、スギノキーネとかいうドワーフ料理だ。特に4本の足はほんとうにおいしくて体の奥から暖まるようだった。
その後に噛り付いた壁や床料理も、どれも味、量、共に満足のいくものばかりで、ペンションとしてではなく、お菓子の家としてやって行けそうだと、改めて思った。
「これって叔父さんが作ってるの?」
食後のコーヒーの時、ぼくは真理にたずねた。
「ううん。叔父さんは依頼してるだけよ、料理を作ってるのは大工さんの方。小さい頃から職人になりたかったんですって。」
「ふうん」
「それにね実は叔父さん、家作りがとても下手なのよ・・・」
「・・・・でも大変なんだろうな」
ぼくは感心した。
「そうでしょうね。でもたまたま知り合いに建築士と大工がいてね。コネだけは初めからあったから、そういう面ではそんなに苦労はなかったみたいよ」

そんな会話をしているうちに食事を終えた人々が、三々五々、食堂を出て行く。ぼくのデジタル時計は19:55を示している。
「さてと。私たちもそろそろラーメン屋行きましょっか」
真理が信じられないことを言って立ち上がった。
「まじですか、屋台の鉄骨とか、よだれダラダラやん」

ぼくもそう言い返してホフク前進の準備をした。


「スイスの天気予報聞いてる限りじゃ、ラーメンどころじゃなさそうよ」
裸エプロン姿のグリーンさんが、横から口を挟む。
「当分、ここから出ない方が良いみたい」
うっせぇアルバイター・グリーン、JKかババアかわかんねぇんだよ。
暇なときは日向ぼっこしているのか、顔も髪も髭もすっかり雪焼けして、まるで男のようだ。 …髭? まぁいいや。
「そんなに激しいんですか?」
僕は思わず聞き返した。
「予報を翻訳サイトで訳しながら観てたんだけど、『僕、です。悲しい降る』って言ってたからね」
今度は、もう一人のアルバイト、クボータがやって来た。
クボータは自称小学18年生、サーフィン好きが高じて、単位そっちのけでバイトをしているのだという。身長は屋根を越えていて、戦闘機はもちろん、UFOもたまに打ち落とす体つきをしている。
こういう人の前に立つと顔を見上げるだけで首が痛くなる。鳥の唐揚げヤるから、下に来てほしい。ぼくは真理の反応をうかがった。
真理の方が唐揚げに興味を示している。
…うぜぇ。
「向こうの空まで雲があるから、まぁ2・3日は延びるかも知れないね。」
「もちろん、宿泊代安くするために部屋を一緒に…」
「透、3日は喋らないでって言ったでしょ。」
当然、泣いた。
ホフク前進のまま廊下に出た。

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