2010/08/31

かまうぃたちの夜(復刻版)

第15章 一つの推理
全員ぎくりとした様子でこちらを見る。
「ほ、本当かね?」
リーさんもおどろいている。

「犯人って・・・・・・まさかあたし達の中に、犯人がいるって言うんじゃない
でしょうね?」
真理はおそるおそるたずねた。
「・・・・・・残念だけど、そういうことになる。」
「そんな・・・・・・」

ぼくは言った。

「犯人は、この中にいる!!」
片っ端から指さした。
「さぁ、ぼくを騙そうとしてもむだだ。 一歩前へ出て許しをこえ!」

視線が痛い。
「透・・・・・・とにかく、2~3時間寝た方が良いわ」
真理が悲しそうな顔をしながら言う。
「ごめん、じゃあこちらから犯人を言うね」
策はまだある。

ぼくは軽く咳払いをして、再び言った。
「実はぼく、犯行現場の写真撮っちゃったのねぇ」
にやりと笑って一人一人の動きを確認した。
犯人がいれば、そんな証拠物品があると聞いて、動揺しないはずがない。

「今なら写真を取り引きしてもいいんだけどなぁ。 証拠がなければ警察のお世
話にならない、犯人を隔離できればぼくらも安心して寝られる、いい取り引きじ
ゃない?」
なぜか、空気が重い気がする。

「と・・・・・・透」
もはや真理も絶句していた。
「ふざけるな!! 写真なんて撮られてないぞ!!」
クボータさんが立ち上がり、ペンション中に響くほどの声で怒鳴った。

「やはり、あなたが犯人でしたか」
ぼくも立ち上がり、クボータさんに歩み寄った。
「あの変態の部屋にどうにかして入り、どうにかして始末し、どうにかして抜け
出した。 なにくわぬ顔で合流した。 違いますか?」
「兄ちゃん、それアバウトすぎとちゃうか?」

口出ししてきた香山さんを睨みつけた。
「透君、君の言う通りさ。 まさかこんな頭の回るやつがいるなんて、誤算だっ
たよ。」
こいつ、アホだ。

「クボータ君、なんで・・・なんでこんな・・・」
「決まってますよオーナー。 あいつは、あの変態は、オーナーの尻を狙ってい
たんですよ!! おれのものなのに!!!」
こいつ、アホだ。

号泣するクボータさんに誰も近づけなかった。
いや、近づくのは危険だと誰もが察知していたのだろう。
こうしてぼく達は、朝まで号泣するクボータさんからできるだけ距離をおきなが
ら談笑した。



終わり

2010/08/29

練習@2部

本日のテーマ:2日良い。


若いっていいなぁ。
帰りベロンベロンで起きたら頭ガンガンで、そんな飲み方できるもんねぇ。
そんなわけで、今回の2部連は、1部が死にながらの2000m、2部が下記4000mちょいです。
死にかけでもできるメニューなので、参考にしていただければ、と。

W-UP
S 40m x 10 x 2 --- 50" Dash
S 40m x 5 --- 60" 10H30E
S 300m x 1 --- Choice Accel
----------------------------------------------------------
PKS 200m x 6 --- 3'15" -15"/2set & PS-KS-S Dash/set
P 100m x 4 --- 1'40" C.UP-H.UP-2High.P/25m
KS 25m x 10 --- 35"S Form - 25"K Dash/t

S 200m x 1 --- Form
S 200m x 3 --- 3' Main.Dahh
S 200m x 1 --- All Out
----------------------------------------------------------
C-Down
S 100m x 1 --- Free

2010/08/25

先月の大会を振り返って

先月の大会のビデオをGetできたので。



・謎の入水(派手な大ジャンプ入水)

・去年より断然早いけど、去年より10割り増しで遊んでる

・↑だから0.8”/50m向上程度

・猫ひろしの昇龍拳がわかってもらえず

・遊びすぎ

・各種目レース後に振った「完全敗北」Tシャツの場面カット

・おじいちゃんスタート・・・は壁が滑って蹴れないからしょうがないか


2010/08/24

やっほー



おねむの時間だよ。

2010/08/21

練習@夏休み後

今回のテーマ:バカンス気分のIM

W-UP 1750m
------------------------------------
S 25m x 120t --- 30" IMorder/t rota
S100m x 1 --- Easy
S100m x 8 --- 2' IM Dash
------------------------------------
C-Down 200m


しんどー

しんどいっす

120数えながら40本ごとにサポーターとかハンディを少しずつ脱ぎ散らかし、馬鹿んす気分なメイン。

脱ぎながら泳ぐのがしんどかったー

それはそうと、次回のサザウェさんは、「戦場で輝く波兵」「パンチラ自爆テロわかめ」「かつお、特殊部隊を志願す」の3本です。

2010/08/19

かまうぃたちの夜(復刻版)

第14章 わきあがる疑惑
・・・・・・待てよ。
ぼくはふと疑問に思った。
ぼく達は初めから、犯人は泊まり客以外の超変態だと決め付けていた。
でも本当にそうなのだろうか?
犯人は、顔見知りでありながら、皮をかぶっていたんじゃないだろうか?

そして犯行のあと、なにくわぬ顔でみんなといる。
そう考えると、誰も見つからない説明がつく。
それとも、何か方法があるのだろうか?
窓の割れる音がしてから、ぼく達が駆けつけるまでのあんな短い間に、空き部屋を探して隠れることが・・・・・・。

できるわけがない。
そこから、さらに犯人探しをかいくぐるなんて・・・・・・。
きっと、犯人は見えているが見えていない、そうに違いない。

では一体いつ?
どこで?
どうやって気づかれずに、あの変態を仕留め、戻ってくることができるのだろう?
変態と知り合いで、部屋に入り、仕留め、鍵をかけた。
それも物音一つたてることなく。

でも、それだけだと、誰かが犯人だとは特定できない。
となると・・・・・・。
事件は現場では起きず、会議室で起きた。

そうか・・・・・・。
ぼくには真相が見えてきた。
犯人が不可能犯罪の達人だというわけではない。
犯人も、犯行現場もぼく達には見ていた。
にもかかわらず、心理的な見ていないと認識していたのだ。

「どうしたの? ハートブレークショット受けたような顔して」
真理がコンバットナイフで襲いかかってきた。
「なんでぼくなんだよ。 リーさんの方が倒しがいがあるでしょ」
「いいじゃないの、誰でも。 それで、どこから斬られたいのよ」
「そんなことより、真相が分かったんだ。 超変態の正体がね」

2010/08/17

かまうぃたちの夜(復刻版)

第13章 黒猫
勢いよくドアを開け、物置の中にショットガンをありったけぶち込む。
四人がかりで撃ちまくった後、香山さんが閃光弾を投げ込んでドアをしめる。
・・・・・あれだけショットガン発砲した後なので、閃光弾は意味がない気がするが。

そんなことを考えている間に、激しい閃光と音が響いた。
クボータさんがそっとドアを開ける。
中はテロリストと甘いひとときを過ごしたかのような、戦場のような状態だ。
モップの残骸とくだけ散ったちりとり。
その奥に黒い塊がいた。

「・・・・・・猫だ」
「ありゃ、ジョニーだ。こんなとこにいたのか」
クボータさんが言った。
「ジョニー?」
「ここで飼っている猫だよ。見かけないからどこに言ったのかと思ってたんだ。こんなとこに入り込んでたとはね」

とりあえずジョニーだったものに合掌した。

次は一階だ。
一階には、談話室を除くと・・・・・・。
食堂とキッチン。
グリーンさん、クボータさん達のスタッフルーム。
リーさん夫婦の部屋。
闘技場なんかがある。

人の入れそうなところは一つ一つすべて調べる。
ネズミ一匹見つからない。
「リーさん、隠し部屋的なものはありませんか?」
ぼくは念のため、聞いてみた。
「あとは外の犬小屋くらいなもんだよ。 空家とはいえ、風も雪もほとんどしのげないから、まず使わないだろうね。」

「なんや、結局おらんかったわけやな。 せっかくソニックブームかましたろ思てたのに」
と、香山さんがぶつぶつ良いながら談話室に戻って行った。
そうか、香山さんはガイルかナッシュと友達なのか。

そんなことを考えながら、ぼくも談話室に戻った。
談話室に戻ると、今日子さんが香山さんをしばりあげ、上から雪を盛っていた。
例によってミッキモーさんが飛びつく。

「誰もいなかったのね」
真理がぼく達の表情を読み取って言う。
「結局、外に逃げたって言うことなのかしら」
「だろうね」
クボータさんが答えた。

みんなほっとしたような、それでいて不安げな、複雑な表情を浮かべている。
そりゃそうだろう。
とりあえず内部に不審者がいないことは証明できたものの、本当に誰も隠れていないとは、まだ確信できない。
今いなくても、夜中に入ってくるかもしれない。

いくら戸締りをきちんとしたところで、窓を割れば簡単に入ることができるのだ。
外からの脅威にどこまで立ち向かえるか、不安は隠せない。
・・・・・・待てよ。

かまうぃたちの夜(復刻版)

第12章 見えない犯人
「このライフルは犯人だけじゃなくミスした仲間も成敗するから気をつけてね」
真理の一言だけが心の支えだ。
「どこから手をつけるのがいいかな?」
リーさんが誰にともなく尋ねた。

ぼくは言った
「2階から調べましょう」
どちらかというと2階のほうが犯行現場に近くて危険な気がした。
だから、早めに調べて早めに下に降りたいというのが正直なところだ。

2階はすべて客室で、それらを一つ一つ見て回る。
クボータさんがノブを握ると、ぼくとリーさんがショットガンをかまえ、ドアが開くと同時に部屋に突入する。
「いいか、Go!」
「クリア!!」

ぼくとりーさんでベッドのからかばんの中まで調べ、クボータさんが部屋の全体を、香山さんとミッキモーさんが周囲を見張る。
そうやって一つ一つの部屋を、換気口まで捜索して行った。

最初は銃口定まらずといったところだったが、同じことを繰り返すうち、だんだん慣れてきた。
リーさんも同じらしく、ふざけてOL3人組のクローゼットに発砲したりしていた。
OL3人組の衣類がはちの巣状態だ。

「は・・・はは・・・どんな奴が出てきても、だ、大丈夫ですよね」
「そ、そうだよ。 ショットガンさえあれば」

「リーくん、あのドアはなんや」
香山さんが廊下の突き当たりのトビラを指差しながら言った。
「あぁ、物置みたいなもんです。 モップとかイケない子とかお仕置きするための。 人間は・・・・・・大人だと隠れられるかどうか・・・・・・」
近づくとぼくたちの耳に、ガサッという音がはっきりと聞こえた。

全員がぎくりとして足を止める。
ミッキモーさんが目をぎょろつかせて、ぼくを見る。
『一気に片を付ける』
その目はそう言っていた。

ぼくはショットガンを持ち直し、首を縦に振る。
トリガーにかける手に、汗がにじむ。
ノブに手をかけたリーさんが、みんなの顔を見回した。
ぼく、ミッキモーさん、クボータさん、そして少し離れたところから香山さん。
四人が一斉にうなずいた。

2010/08/15

かまうぃたちの夜(復刻版)

第11章 犯人と夘人
警察だ!
そんな当然のことに、今までぼくは気がついていなかったのだ。
あまりに激しいものを見せられたせいで、普段の思考ができなくなっていたようだ。
それはリーさんも同じだったらしく、慌てた様子で奥に消えて行くと、地図とレーザーポインターを持って帰ってきた。

地図を見ながら窓の外を覗き、レーザーでモールス信号をする。
しかし、すぐにこっちに戻ってきて叫んだ。
「駄目だ。 何も反応がない。 警察署の方向にモールス信号を送っているのに!」
「な、なんやて!」
香山さんは立ち上がって叫んだ。

「そら困るで!」
「多分、ポリスメンがびびってるんでしょう」
リーさんはレーザーポインターの先を、憎々しげに見つめている。
こいつら、早く何とかしないと・・・・・・!

どうすればふもとの警察署まで光が届かない常識を彼らに教えることができるか、考えがまとまらなかった。
レーザーモールスしかないということは、明日になり、吹雪がやまない限り、警察に連絡できない。
・・・・・・だけでなく、明後日の心理学の再テストにも間に合わないということだ。

香山さんは突然、笑い出した。
「あ、そや。わし、携帯電話があるんや。あれをつこたらええわ」
しかし、リーさんはにべもなく言った。
「無駄ですよ。香山さん。 このあたりは邪魔だったんで私が全部撤去したんですよ。 半径50キロは圏外のはずです」
狂ってる、みんな心の底から思ったに違いない。

「そ・・・・・・そしたら、一体どないしたらええんや。 変態を仕留める超変態がこの辺りうろついとるっちゅうのに」
超変態・・・・・・。
その言葉に、ぼく達は虚をつかれたような思いだった。
変態がやられた事実に気を取られ、あれがまぎれもなく変態を超えし者の仕業であることなど考えもせず、カマウィタチだのカヤマだのと騒いでいたのだ。

いや、わざと考えないようにしていたのかもしれない。
しかし、あれが事故や自殺であろうはずがない。
変態vs超変態だと考えるのが一番自然だ。
あ、いや、やっぱり不自然か。

誰かが、変態の蝶ネクタイを取り、首をいろんな方向に折り曲げたのだ。
そして香山さんのいうとおり、この天候を考えると、その犯人はまだこの辺りにいる可能性が高い。

「この天気で、山を降りることはできますか?」
ぼくが尋ねると、リーさんが縦に、クボータさんが横にほとんど同時に首を振った。
「OK牧場だよ」
「無理だろ」
「・・・無理だろ!! ばかちんが!!」
リーさんがクボータさんの意見に音速で乗っかった。

「さっきミッキモーさんがたどり着いたのだって、奇跡みたいなもんだよ。
歩いて降りたら警察著前で凍死、車だったら警察署の駐車場で凍死しかねない。」
「じゃあ、犯人は、このペンションの中に隠れようとするんじゃないでしょうか? 生き延びる為それはないでしょう?」
全員が息を呑んだ。
泣いていたブタ子さんでさえ、一瞬泣き止んで恐怖の表情を見せた。

クボータさんは怒ったように立ち上がる。
「じゃあ・・・・・・じゃあ、何か? 俺が冷えたビール買って来ない限り、安心できないってのか? 冗談じゃない!」
「そらそうや。 ビール飲まな寝られへんっちゅうか。 何とかせな。」
香山さんも、大きくうなずく。

「何とかって・・・・・・どうするんです」
リーさんが当惑した様子で聞き返した。
「そら、こっちも対抗できる武器持って戦うしかないやろ。 警察に来てもらえん以上、自分らで身を守るしかないやないか」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
見かけによらず情けない声をだしていたのはミッキモーさんだった。

「あんな変態をも倒す超変態ですよ? 下手に手を出すより、ここでみんなでじっとしてた方がよくありませんか? これだけ人数がいれば、どんな凶悪犯だって、手出しはできないでしょうし・・・・・・」
「じゃああんたは、このままここでずぅっと起きとけっちゅうんかいな。寝とる間に、尻触られるかもしれへんのやで」
香山さんがとんでもないことを言い出すものだから、男子一同ガタガタ振るえた。

ぼくは慌てて口を挟んだ。
「いや、ぼくはそっちの気はないんで、勘弁してくれるはずでしょう。 念のためベルトに南京錠を付けておけば脱がされないはずですけど・・・・・・。」
「南京錠ったって、ベルト引きちぎられたらしゃあないやないか」
「まさか! 一体どうやって皮ベルトをちぎるって言うんです?」
リーさんは驚いて声をだした。

「そんなことわしゃ知らん。 そやけど、ハサミとかカッターとかでも切れるんちゃうか。 わしらが寝てる間やったら、気づかんように試せるやろ?」
「でも・・・・・・でも・・・・・・」
リーさんは両手を挙げて天井を見つめる。
「そやから、はよ武器持って捜索した方がええんやて。 ポケモンGetするのと似たようなもんやから」

「話を戻しましょう。 犯人は窓から外へ逃げたんじゃないですか? だって、ドアの鍵はかかったままだし・・・・・・」
ぼくは当然だと思っていたことを言った。
「そんなことわかるかいな。 ドアに何かして閉めたかもしれへんし。
たまに鍵入れっぱなしで締まるドアとかあるやん。 なんか、そんなノリかも知れへん。」

確かにドアに関しては香山さんの言う通りだった。
たまにオートロックでもないのに、うっかりロックできるドアがある・・・・・。
『チョルチェン』の客室のドアは、うっかりハティベェタイプだった。
だから、鍵が締まっていたからといって、犯人が窓がら逃げたとは限らない。
とはいっても、二階の部屋はさっきみんなで調べたばかりだ。

誰か見知らぬ人がいれば気がついたはずだ。
「なんにしても、みんな何か、武器になるを持ったほうがいいんじゃないかしら?」
ライフルの銃口を覗きながら黙り込んでいた真理が、口を開いた。
僕は真理の提案に驚いたが・・・・・・。

「そら言えてる。イザっちゅう時のためやな」
「さっそく、用意しよう」
みんなはすぐにその意見に賛成した。

・・・・・・といったってこんなペンションのこと、武器なんてあるわけもない。
結局みんなが手にしたのは、ショットガン、ライフル、閃光弾、そして日本刀。
爆竹なんかはかえって危ないというのでこんなものになってしまったが・・・・・・。
頼りないことこのうえない。

「何人かでチームを組んで、しらみつぶしに調べるんや。閃光弾投げ込んで、一斉に部屋突入して、制圧する・・・・・どこに隠れとるか分からへんのやで」
いつの間にか香山さんがリーダーシップを取っている。
やはりそこは社長だからだろうか。

男は五人。
ぼく、ミッキモーさん、リーさん、クボータさん、香山さん・・・・・・これで全部。
女性陣は見送りだ。
壁中に犯人のわら人形を五寸釘で打ち付けてもらいたい気分だった。

かまうぃたちの夜(復刻版)

第10章 マネキンがリアルで気持ち悪い
窓とベッドの間に、少し隙間がある。
その隙間に、あの変態が無造作に押し込まれていた。
首が180度違う方向に向いている。
・・・・・いや、それ以前に、あごが上に、額が下にきている。
まるで人間以外の生き物を見ているような錯覚さえ感じられた。

「何てこった・・・・・・こりゃあ・・・・・・こりゃあ・・・・・・何かあったんだ。 この部屋でこの変態に何かあったんだ!」
リーさんはもはや腹部に突き刺さったドアも気にならない様子で、叫んだ。
ぼくはコイツ何言ってんのと思いつつ、雪の積もり始めた変態を見ながら立ちすくんでいた。

・・・十日後。
ペンション『チョルチェン』の泊まり客とスタッフは全員、一階の談話室に集まっていた。
正確には、あの変態客を除いて全員ということになるが・・・・・・。

変わり果てた変態を見たのはぼくとリーさんだけだった。
後ろの人は、リーさんが部屋から追い出してしまったからだ。
ぼく達は、見たものを説明できるほどの余裕もなく、ただ脅えながらエクストラコールドで乾杯するのが精一杯だった。

「ねえ、いい加減何があったのか教えてくれてもいいんじゃないの?」
いらついた口調でグリーンさんが言った。
ぼくはリーさんをチラリと見たが、ヘビメタに夢中でグリーンさんの言葉が耳に入っている様子もなかった。
僕はゆっくり答えた。
「ぼくがね、教室に連絡帳を忘れた時の話なんですけどね・・・誰もいないはずの音楽室からカタカタ・・・ポンポロピン・・・・・ポロカタピーンって音がね・・・・・・」

ごくりと誰かの唾を飲む音が聞こえる。
「それと今の状況と・・・・・・関係あるの?」
グリーンさんは、うざい怪談だとでも思ったのか、鋭く聞き返す。
「それでね、ドアを開けるか悩んだけど・・・・・・」

知らず知らず、声が上がり、甲高く叫ぶような調子になっていた。
「・・・・・・鍵がかかってて開かないの! 誰かが、忘れた、ケータイが、ドアの向こうにあるのに!」
「きゃーーーー!」
女の子の誰かが、そう叫んで泣き出した。
見ると、可奈子さんだ。

「・・・・・・あの変態に何かあったの、というか音楽室が関係あるの?」
グリーンさんが、小声で聞く。
「それは・・・・・・わかりません。 雑誌の怪談だから、よくわかんないけど、もう少しで音楽室とあの変態をつなげられると思います」

突然、グリーンさんは目を細めた。
「それってもしかして、思いつきで話して、巧みな話術で上手く着地しようとしたの? それともあの変態さんのケータイが音楽室にあったの?」
「ぼくに上手い着地なんてできるるはずがありませんよ」
僕は無計画のギャグが大失敗したのに気付き、身震いした。

「でもさー、抹茶とか宇治茶とか入れたお菓子を京都味ってゆーのってさ、なんか短絡的じゃない? どんだけ京都を軽く見てるのって話じゃないの」
何言ってるのか全然わからないが、だんだん自信がなくなって来る。
「・・・・・・あの部屋で変態がサスペンス劇場していた。 間違いない。 ちゃーらーらー♪が脳内で聞こえた」
リーさんが断言すると、可奈子さんはまた声を上げた。

「やっぱりかばんから消えたプリッツ食べたいのよ!あたし食べたい!」
こいつらの話がかみ合ってない事には誰も触れなかった。
「そういえば・・・・・ぼく、聞いたことがあるよ。 ・・・・・かまうぃたちのこと」
ミッキモーさんが、口いっぱいにプリッツをほおばりながら話し出す。
「かまうぃたち?」
ぼくは聞き返した。

「あぁ、知ってるだろ?
このあたりでは昔から、何もないところで突然服が切り裂かれたり、半裸になったりすることが知られていたんだ。
土地の人達は、すっげぇエロいイタチ野郎のしわざだと考えて、かまうぃたちと呼んだ」
ミッキモーさんは低い声で話すと、ぼく達の顔を見回した。

しばしの沈黙の後、リーさんは鼻で笑った。
「だからネズ公専門のあなたがここに来たわけですか? 馬鹿馬鹿しい」
真理も口をはさむ。
「そうよ、このかまうぃたち野郎、ちゅーちゅーうっさいのよ」

しかしミッキモーさんは動じなかった。
「一応、ネズミなら何でも良いという姿勢をとっている。 でも、実際でっかいネズミがいたら妖怪か悪魔か分からないが、恐怖の象徴になるのは確かなんだ。」
「でも、半裸になったり、服が裂けたりするってのは聞いたこともありませんし、ネズミの話は関係あるとは思えませんが」
ぼくは言った。

「いや、ぼくも妖怪とか出して、どんな顔をするか興味があったんだ。
・・・・・・そんな顔をしないでくれ。ぼくは別に、ネコ系じゃないからね。
仮にネコ系ネズミファンだと考えてみよう。このネズミ画像を見てみろよ。
にゃー♪にゃー♪にゃー♪って言いたくなる。そう思わないか?」
窓ガラスを割り、そこからミッキモーさんを放り出したい・・・・・・。
そんな風なことを考えてしまった。

「カヤマよ! カヤマのしわざだわ」
ずっと脅えた表情をしていた亜希ちゃんが叫んだ。
「亜希・・・・・・。カヤマって誰よ。」
啓子ちゃんがいぶかしげに尋ねる。
「よく分からないけど・・・・・外の雪まみれの人よ。 それだと説明がつくもの」

亜希ちゃんは外を見ながら、一人うなずいている。
「じゃあ脅迫状はどうなるのよ。あれを書いたのは人間でしょ?」
「え、でも・・・・・だって・・・・・」
亜希ちゃんは困ったような顔のまま、また泣き出した。

「なあ、寒いんやけど、ペンション中に入っても良いかな?」
香山さんがたまりかねたように口を挟む。
リーさんは、一瞬ぼくにウィンクした。
が、軽く無視されたのにすぐに気づいたか、ぽつぽつと、脅迫状の一件を話し始めた。

「実はですね・・・・・・さっき・・・ホワイトボードに・・・何か書いてたんすよ・・・
 うぃーーー・・・・・うぃーーー・・・・・うぃーーー・・・・・・?
 俺ぇ・・・恐いんすよぅ・・・ほんとねぇ・・・どう思うんすかぁ・・・?」
聞き終わったあとしばらく、全員が絶句していた。
「そんなことが・・・・・・あったんですか、ってかウザイ・・・」
ミッキモーさんがつぶやく。

「そんなん良いから、雪寒いんやってリーさん。玄関開けて玄関・・・・・・」
香山さんが、白い息交じりでぼやく。
「・・・・・・でもとりあえず暖かいコーヒーと電話は要るんちゃう。
 上にあるのがホンマに変態の残骸なんやったら、はよ警察に連絡せなあかんわな」

警察!

2010/08/14

かまうぃたちの夜(復刻版)

第9章 鳩のなく夜
鳩時計が鳴る。
みんなが一斉にそちらを見た。
(パッポッ)3・・・・・・。
(パッポッ)4・・・・・・。
(パッポッ)5・・・・・・。
(パッポッ)6・・・・・・。
(パッポッ)7・・・・・・。
(パッポッ)8・・・・・・。
(ポッ…ビチャビチャ)9・・・・・・。

9時だ。
鳩が鳴きやむと、みんな体についた鳩時計の肉片を払う。
窓枠ががたがたと鳴り、雪まみれの香山さんが中に入れてと言っている。
「やだ、キモい豚が外から覗いてるわ」
嬉しそうに三人組の可奈子ちゃんが言う。

「やだ。 縁起でもないこと言わないでよ。 アレに続いて気持ち悪い・・・・・・」
啓子さんは言いかけて、かっぱえびせんを口に放り込んだ。
・・・・・・まだ食うのか。
「アレって、何です?」
ミッキモーさんがのんびりと尋ねる。

ぼくは何とかフォローしようと思い・・・・・・。
「さっきまで香山さんって方が泊まってたんですよ」
「ええっ、ほんとですか?」
ミッキモーさんが驚いて目を丸くする。

「あれ? 証拠はすべて抹消したはずだがなぁ・・・・・・」
リーさんが首をひねった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
皆、目が点になった。

「うそっ、うそっ! 冗談ですよ。もう、みなさん、簡単にひっかかるんだから・・・・・・」
リーさんは、大きく手を振っておどけた。
啓子ちゃんが胸を撫で下ろす。
「なぁんだよかった・・・・。私、そんな人、見たことないから・・・・」
雪まみれの香山が窓と割れんばかりに叩く。

「・・・・・・あの、バイタリアンの方ですか?」
亜希さんがミッキモーさんに質問した。
「僕? いやいや。僕はエイリアンです。 遅れたもんで夕食には間に合いませんでしたが・・・・・・。
一応自己紹介しとこかな。 若い女性もたくさんいることだし。」
そういって、子鹿のようにヨロヨロ立ち上がると、ミッキモーさんは少し改まった調子になった。

「やぁ、僕ミッキモー。 ネズミ派カメラマンさ。 千葉ネズミ公園は専門外だけど、中国ネズミ公園は得意分野だよ。」
冗談のつもりか、一人で笑った。
「やだ、変態じゃん」
女の子達は得体の知れない物と対峙したかのように嫌がる。

「恥ずかしがることはないじゃないか。
確かに、千葉ネズミはかわいいけど、中国ネズミのほうが壮大な感じがするんだよ。
それに、そのうち年を取ったときに、ああ、中国ネズミを頬ズリしたりシャブったりしたいって、きっとそう思うようになるよ。」

僕は真理の顔をうかがった。
軽蔑したような表情しか浮かんでいない。
・・・・・・ってか、ぼそっと「早く地獄行けばいいのに」って言ってる。
「ブタ子、ネズミ食べればー?」
亜希ちゃんが啓子ちゃんを肘でつついている。
「えーやだ。自信ないもの」
激しく首を振りながらも、啓子ちゃんはまんざらでもなさそうだ。

ガチョーーーーン!!

「何や? 今の古いギャグみたいな音は…」
香山さんが驚いて叫んだ。
「私、ちょっと見てきます」
リーさんは財布を取り出し、中身を確認した。
「500円足りない・・・・」
みんなで無視した。

ミッキモーの作ったうっとうしい雰囲気が冷めたようだ。
やがて、奥から連れ出したのか、クボータさんが出てきた。
「一階は、全部の窓割れてるけど、異常はないみたいだ。
 ・・・・・・すみませんがみなさん、ご自分の部屋で何か割れてないかどうか、確かめてきていただけませんか?
窓から香山さんが入ってくるかもしれませんしね」

そりゃ良いや。ぼく達は立ち上がり、木刀片手に二階へ上がった。
二階へ上がると、ぼくはまず真理の部屋に飛び込んだ。
バッグを開けてのぞいただけで、何も異常がないのは分かった。
が、一応香りが残ってないか確認したところで、後ろから真理に鉄パイプで叩かれ、廊下に追い出された。

香山妻(スプリンガー)、ミッキモーさん、そして女の子三人組もそれぞれの部屋から出て来る。
その顔を見れば、何もなかったらしいことは読心術の心得があるから分かる。
やがてぼくの部屋を調べていたらしいリーさんも、半裸で廊下に出てきた。

「みなさん、異常ありませんでしたか?・・・・・・とすると、後は一部屋しかないな。」
そういって、ある扉を見つめる。
あの変質者のような男の部屋なのだろう。
ぼく達は自然とリーさんを取り巻くように立っていた。

「そういえば、あの脅迫状、もしかしたらあの人が書いたのかもね。」
真理が、ぽつりともらす。
「どういう意味?」
「この部屋で何かが行われているのかも・・・・・・」
他の人達には聞こえないよう、ツイッターで語る。

いちいちケイタイ見るのがめんどい・・・・・・
「まさか。それに、まだ9時過ぎだよ? あの脅迫状じゃ、予告時間は書いてないじゃないか」
「そうだけどさ。 だいたい犯行予告なんてのは、天気予報と同じで、大体こんな感じですって出すものでしょ。透、温いビールとか飲んだことあるでしょ?」
こいつ、何言ってんの。

「お客様!出てこい変態!」
半裸のリーさんは、ガンガンと扉を強くノックした。
しばらく待つが、返事はない。
耳を澄ましていると、中から何かが風であおられているような音がする。

「おい、お客!」
リーさんはガンガン扉を蹴りだしたが、やはり返事はなかった。
「やっぱりこの部屋で何かあったみたいですね。」
ぼくは言った。

リーさんはうなずくとぼくの手を握る。
「だめだ。 心の鍵がかかってる。」
リーさんはちょっとだけためらったが、やがてTシャツを脱ぎ始めた。
下は靴下以外身に着けていないらしい。
放送事故を察知して、ドアごとリーさんを蹴飛ばした。

「失礼します」
リーさんはベッドのあたりでうずくまりながら、一応そう言った。
が、室内を見た途端、その部屋がおかしいことはみんなに分かった。
ドアのあったところから、ひどい冷気とともに、一陣の風がぼくたちの間を吹きぬけたのだ。

室内からは、ばたばたとリーさんのTシャツの音と、チラチラ見える中年男性の尻から漏れる爆発音と異臭・・・・

「お客さん!」
リーさんが立ち上がろうとしたので、壊れたドアをブーメランのように投げつけ、リーさんにぶち当てた。
オーナーの意識を断ったところで、部屋の中を見回す。
ぼくの部屋と同じツインの部屋だ。

カポーで泊まれるツインでぼくのツインツイン・・・なんでもない。
開け放たれた窓から吹き込むよくわからないものが、狂ったように乱舞していた。
お好み焼きの上に乗ったかつお節が、吹き飛びそうなほど、ばたついている。
窓側のベッドによくわからないパウダーが盛られているだけで、人の姿はなかった。

「変態さん! 見ーつけた!」
ぼくさんは叫びながら、入り口脇にあるバスルームの扉を開けた。
窓の方から音がした。
振り向くと、香山さんが風に揺れる窓と窓枠に挟まっている。

「窓から出たんじゃないでしょうか?」
ぼくは言ってみた。
「何で? 馬鹿じゃないの?」
リーさんが当然の質問をする。
ぼくにももちろん分からない。

リーさんは立つと風で放送禁止状態になる。
「調べてきます」
ぼくはリーさんの許可を得た。
真理に誰も部屋に入れるなと支持し、奥に進んでいった。

続いてリーさんがTシャツの下を押さえながらあとに続く。
吹き込む雪から顔を守りながら、ぼくは窓にたどり着いた。
窓枠にしがみつく香山さんを蹴り落とした次の瞬間、ぼくは立ちすくんだ。
「・・・・・・何だ、これは」
ぼくは、部屋一点に視線を向けたまま体が硬直したような感覚に陥った。

かまうぃたちの夜(復刻版)

第8章 平穏なひととき
「どうもこんばんは!」
足音も高く、さっき上がって行ったばかりのミッキモーさんが降りて来る。
「部屋が分からないんで雪の上に荷物置きましたが? 参っちゃうな。 ねぇ、さーむい寒いよ」
えらく馬鹿な人らしく、あははと大声で笑いながら真理の隣に腰掛けた。
「あ、ミッキモーさん。 もう降りていらしたんですか。 邪魔だから使えない鍵を渡しておいたのに・・・・・」
リーさんがコーヒーを灰皿に入れて持って来る。
みんなの表情がみるみるこわばった。

その後から、奥さんの今日子さんとバイトのグリーンさんがガーゼに紅茶を染み込ませたものを持ってやって来た。
ぼくはうつむいた。
どこからか「帰りたい」という声が聞こえる。

「スプリンガ―さんはビールだめでしたよね? 紅茶は、いかかですか?
あと、ウォール・グッドケーキというのもありますけど・・・・・おいしいですよ」
リーさんがたずねると、スプリンガーさんはちょっと考えてうなずいた。
「ええ、じゃあいただきます。」
「じゃあ、召し上がれ。」
リーさんはそう言うと、ケーキを壁に投げつけ、ケーキに向かって紅茶をまき散らした。
今日子さんがデジカメ片手にニタニタ笑っている。

そこに、なぜかミッキモーさんが飛びついた。
「ああ、生き返るみたいだ・・・・・!」
ミッキモーさんは有難そうにケーキをはぐはぐと食べる。

ひげを生やした人というのは、人間性がよく分からなくなってしまうものだが、ミッキモーさんもそうだった。
これの感じや喋り方からして、中年と言うにはまだ間があるだろうが、たぶん30代半ばだろう。
首輪をすると案外ぼくたちと変わらなくして20そこそこ、なんてこともあるかもしれない。

「泊まり客は、これで全部ですか?」
一息ついたミッキモーさんがぼく達を見回して聞く。
「いえ、私のボウリングは108レーンまでありますよ」
リーさんが答えた。
「そうだ。グリーンさん。彼女達もお茶が欲しいかもしれない。 ちょっとドアの隙間からバルサン流してあげなさい」
「はーい」
グリーンさんはぱたぱたとスパイクの音をさせて、フロントへ向かった。

「あの、男の方はどうされます? ちょっとキモい感じの・・・・・」
こっちへ振り向き、聞いて来る。
あの変態のことだろう。
「ああ、そんな奴いたっけ? 一応、ドアの隙間からバルサン流して反応見てくれ」
「えー、あたしやだなぁ」
「嫌ならいいよ。 耐性ありそうなタイプでもなさそうだし。」
「よかった」

グリーンさんは三人組の部屋の前で紅茶を流した。
「オーナー!煙たいそうです。 ドア押さえたら咳こんでます!」
流し終え、下に向かって叫ぶ。
「もうちょっと業務用らしい、強力なバルサンはないもんかな・・・・・」
リーさんは苦笑して呟く。

「本当ですよね。 最近のメスゴキは・・・全く・・・洗剤かけないといけない・・・」
苛立たしげに同意した。
「メスゴキ・・・・・ね、ふぅん、私も含むのかしら?」
真理がチラリと冷たい視線を向けた。
「うんっそぅっ、ごほごほ・・・・・・」
ぼくは思いっきり咳をしつつ肯定した。

「じゃあ、もう三人分、用意してきますね」
今日子さんが、ミッキモーさんのみぞおちに一撃キメながら台所へと消えた。
「ぐっふぇ、ここはえらい弱いんすよねえ」
ミッキモーさんは床を這いずりまわりながら関心した。
「いや、とにかく、人をもてなすのが好きではじめた訳ですから・・・」
リーさんはミッキモーさんを踏みつけながら照れている。

3人組はすぐに降りてきた。
「どーもーでーすー」
「ちょっと、さっさと降りてよブタ子」
「まだバルサン部屋居たかったのに・・・」
あっという間に騒々しくなる。

「わぁーいい香りー」
「服、失礼しまーす。」
「だから、ブタ子。服かじらないでってば」
人が増えて来たので、ぼくたちは香山さんを窓から捨てた。
それでも、いっぱいだった。

ぼくが座ったところで、リーさんが紅茶を持って来る。
「クボータくんにも声かけたんですけどね。 これから冬眠に入るからいらないそうです」
「いただきまーす」
声をそろえて、ガーゼに染み込ませた紅茶をチューチュー吸う。

2010/08/13

かまうぃたちの夜(復刻版)

第7章 遅れてきた客
本当に客だったのだろうか?
疑いながら上に行こうとすると、真理に止められた。
「何も聞こえなかった。 いいわね?」
「はい」
ぼくは震える足を抑えつけ、おとなしく座りなおす。

全身から出る汗を拭いていると、自転車の近づいてくる音がした。
LEDライトだ。
急速に近づいてきて、チェーン音も聞き取れるようになった。
このあたりには他に家もないし、どうやら遅れてきた客のようだ。

案の定、玄関外側のドアと衝突してドアごと木端微塵になり、慌ててリーさんが修理しだした。
やがてリーさんを避けて玄関から髭面の人が入り、二重になったドアの内側のカギを閉めた。リーさんが締め出された。
「すいません!ミッキモーですが!どなたかいらっしゃいますか!」
ガマ声がこちらまで響く。

「ミッキモーさん、ですね? 開けてくれませんか。」
リーさんが、内側のドアを叩きながら言う。
大柄な男の客は仕方なくロックを外した。
リーさんは、倒れこむように中に入ると、慌ててコーヒーを持ってきてほしいと言った。

「いやー、何でそんなとこに居たんですか? 馬鹿なんですか? まるで役に立たないんですか・・・?」
ミッキモーと呼ばれた男の人は、フロントで記帳しながら、喋り続けた。
ミッキーマウスみたいな名前に似合わぬ、ひげ面の、いかにも山男と言った感じの人だった。
「夕食はおわりましたんですが、カップめん程度のものならご用意できます。お作りしましょうか?」
リーさんが尋ねる。

「ラ王!?・・・あ、いえ、途中でエンジンとかぱくつきましたから、お腹は空いてません。おかげで積み荷のチャリで来ましたから、何かあったかい飲み物でもいただけると、うれしいんですが」
「コーヒーとか紅茶みたいなものがよろしいですか?スープもありますが?」
「それじゃあ、紅茶を下さい」
「じゃあ、駅前の自販機で買ってきて下さい。 車で1時間程度ですので・・・」
「あ、やっぱり結構です」
ミッキモーさんはちらりとこちらを見てうなずく。
何の合図なんだ?

「そうですか。じゃあ、これが鍵です。 ダイヤル式なんで意味ありませんが、気にせず上がってください。」
リーさんに鍵を渡されるとミッキモーさんは自転車のサドルだけ担いで、二階へと昇って行った。
鳩時計が一回だけ鳴る。
8時半だ。
「あ、ゴメン。ビールは僕が持ってるから、倒せたら飲んでくれていいよ。」
ぼくらに声をかけると、リーさんはまた食堂に戻っていった。

「ほな、誰が取りに行くか、インジャンで決めへんか? …あ、こっちやとジャンケンっやったな。」
香山さんがそう言いだした。
「あ、ビール派が三人いることですし、グーとパーで決めません? それなら確実に一人選ばれるでしょうし」
真理が提案する。
なるほど、それならグーかパーが一人だけになるから、一回で決められるな。

「よし、じゃあ、やりましょうか。」
「ほな、いくで。 グーとパッ!!」
ぼくは直前まで真理が手を握ってるのが見えたんで、グーを出した。
「ありゃ、兄ちゃん、負けよったなぁ・・・・・」
香山さんはチョキを出してた。
「残念ね、透」
真理もチョキを出してた。
何なの、こいつら?

「頑張って取りに行ってな!」
香山さんが言った。
真理もヨダレをボタボタ垂らして、早くビールちょうだいという目で見てくる。

仕方なく、リーさんと殴り合いながら、鼻血ボタボタでビールを奪取した。
格闘より、戦利品を持って帰ったぼくに向かって、
「あの程度の拳法家に鼻血出さないで、気持ち悪い」
という真理の言葉の方が絶望的だった。

リーさんの奥さん・・・・・スプリンガーさんは、飲めないのか飲みたくないのか、手を出さない。
「ぷはーっ、こういう寒い時に、暖かい部屋で温かいビールを飲むんが最高の贅沢やな。」
香山さんはニコニコしている。
「え? 温かい? 馬鹿なの?」
ぼくは逆らった。
「最高の贅沢なんていったら、赤道直下で焼き土下座しながら冷えたビール飲むことでしょうが、何言ってるの馬鹿ちん。」
「いや、そら違うな。女房と飲むビールが最高やわ」
「違いますね。真理を椅子代わりにして飲む方が・・・」
「もう!いい加減にしてよ!なんで透ごときの椅子にならきゃいけないわけ?黙って飲みなさいよ」
真理に怒られた。
「・・・・・タイヤ顔のくせに!」
ポツリと言い返す。

かまうぃたちの夜(復刻版)

第6章 カヤーマが憎い、嫁的に
「香山さんは前の仕事でお世話になったんだ、ソ連でスパイ派遣会社をされている。」
「しかし、何やな、脱サラした人は何人も見てきたけど、こんな変なのは珍しな。ところで、あんたら学生さんか?」
香山さんはテーブルに話しかけた。

「は、はい」
あわてて、ぼくが答えた。
「どや、うち来んか?」
「まだ先の話なので…」
「なんや、アメリカのスパイ派遣行くんか?」
「いや、まだ先の話なので…」
「あっちは年棒いくらって言ってんの? 10%増しやで」
「チビデブ調子乗るなよ。 いかないって何回…」

「はい、これ、透の履歴書です。」
真理がおもむろにぼくの履歴書をテーブルの上に置いた。
このアマ、いつの間に作りやがった!?
しかも、小中高すべて当たってる、趣味まで。
「兄ちゃん、趣味がテレビゲーム(スパイもの専門)って、いらんわぁ(笑)」
この香山豚、自分から誘っておいて、うぜぇ。

「ごめんな、うちの会社現場主義やねん。ゲーム系のスパイ会社探してな。」
いつの間にかおたく扱いにされてしまった、うぜぇ。
「ご迷惑ですよ、あなた。」
静かな女の人の声が聞こえた。

振り向くと、香山さんの奥さんらしい、あのきれいな女の人が天井からコウモリの様にぶら下がっている。
「困ってらっしゃるじゃありませんか」
遠目にも凄い気がしたが、近くでみると足の小指一本でぶら下がっているのが分かった。
35,6のくせに、できる。

「女房のスプリンガーや。……こっちはフラットタイヤの真理ちゃんとハンドルの透やそうや」
更に昇格していた。
真理は文句を言う気もなくしたようだった。
「ども、どもももももも!!」
「あら、エンジンのまね? 馬鹿なの?」
スプリンガーさんににっこり笑いながら、香山さんの頭にボールペンを突き刺す。

「おいしいお皿でしたわ」
「お世辞じゃないでしょうね」
そう言いながらも、リーさんはまんざらでもなさそうな表情だ。
「お世辞に決まってるじゃないですか、馬鹿なの?」
「奥さんにそう言って頂けると、自信がつきます。」
ひどく重苦しい空気が流れた。

「なんか頭がスースーするんやけど、ビールかなんか、もらえるかな!」
その空気をいらだたしげに破ったのは、香山さんだった。
「ええ、じゃあ君たちも飲むか?」
リーさんが、その場をとりつくろうように聞いて来る。
ぼくは真理と顔を見合わせようとしたが、振り向いてくれなかった。

「じゃあ、ちょっとだけ」
彼女が右腕と左腕を大きく広げて示した。
…ちょっと、樽1個分がちょっと?
ぼくは真理のちょっとで死ねる気がした。

「この乾いた心を潤せるくらいあれば十分です」
キマったと思った。
「何ナルシストみたいなこといってるのよ、近距離バルサンするわよ」
真理に怒られた。
「……たまには言わせてよ」
泣きながら訴えた。

突然、窓の外でどさっと何か雪のようなものの落ちる音がする。
「わっ!・・・何か、落ちたよ」
ぼくのびっくりしたのを見て、真理はくすくすと笑った。
「逃げようとした客が撃ち落されただけよ」
「何だ、逃亡者か。」
天井を見上げながら、“パパママ、先立つムスコをお許し下さい”と唱えた。

かまうぃたちの夜(復刻版)

第5章 関西人=納豆嫌いじゃないよ
そんな感じで知らない国自慢を聞いているところに、二階から中年夫婦の男性の方が降ってきた。
「あああぅああう!!!!! 兄ちゃん、背中が痛い!!!」
受け身に失敗したらしい。

「はいはいホイミホイミ」
僕が答えると、…たしか、香山とかいう中年の人が起き上がる。
バク宙をしようとして、なぜか背中からまた落ちる。
「あかん、ホイミじゃ治らへん… ベホマしてベホマ!!!!」

「え? バイタルスター使えば治るんじゃ…」
「それ、別の話やん。 背中にフォースエッジもないし。」
知らんがな。エボニー&アイボリーでもつけとけや。…と言ってしまいたかったが、我慢した。
「香山さん、2階から降りる時はアンタッチャブル使えって言ったでしょう」
リーさんが声をかける。
何このペンション?

「あぁ、リーさん…いや、ホーリーウォーターで代用できひんかなって思ったんや。」
「奥さんがどうなってもいいんですか。 結婚してから仕事そっちのけでラブラブだった。
そうおっしゃったのは香山さんでしょう…ヒヒヒ…」
そこまで喋って、リーさんは僕たちが見ていることに気付いてヨダレを拭いた。

「あぁ、一応紹介しとこうか。 この子は私の姪で、レーシングタイヤみたいな顔の真理です。 こっちはハンドル顔の透君」
ハン…ドル?
「やだ叔父さん、クラッシュするわよ」
レーシングタイヤ顔が言い返す。

「そうかー、よかったなぁ。」
そう言ってくれた香山さんを顔を振りながらヤラしい目つきで眺め回す。
「な、何やねんな。この体は家内のもんやで!」
じゅる…

かまうぃたちの夜(復刻版)

第4章 汚れたメッセージ
フロントに着くと、女の子三人組とリーさんがホワイトボードの前でなにやらもめていた。
「ちょ・・、ちょっと。落ち着いて話して下さい。一体どうされたんですか?」
「だから! 今部屋に戻ったら、ブタ子が・・・ブタ子がパーーン!」
女の子達が震えながら、リーさんにホワイトボードを見せた。
気になったぼくは、ホワイトボードを覗く。
ホワイトボードには、赤い字でこう書き殴ってあった。

『まくすうぇるの、でんじほうていしきが、わからん』

「マクスウェルの方程式が解らない!?」
ぼくが読み上げると、みんな“うわぁひでぇ”みたいな顔で唾を呑み込んだ。
しばらくの沈黙の後、ようやくリーさんが口を開いた。
「誰かのいたずらでしょう」
「・・・悪い頭ね」
真理が眉をひそめる。

「こいつも解らなかったのか!?」
ぼくも発言したが、誰も聞いてくれなかった。
泣いた。
確かに、基礎だから解るはずだ。
それが本当に大学生なんだとしたら・・・。

「でも、ビアンカのレベルを上げても、再会したらLv10ちょっとに退化しているのよね? やる気失せてレベル上げの旅もできないわ」
そう言ったのはやせて髪の長い可奈子ちゃんだ。
それ何てドラクエ5?

「床に落ちていたんなら、ドアの下の隙間から入り込んだんじゃないですか?
鍵はかけていらしたんでしょう?」
リーさんがそう言うと、女の子達はぽかんとした表情を浮かべた。
「そっかー、ホワイトボードお隙間から入れたんだぁ」
どうやら、そんなことにも気付きもしなかったようだ。
アホだな。

「・・・おえっぷ、脇腹が気持ち悪い」
メガネの亜希ちゃんだ。
「何ならお部屋を替えましょうか? 幸い外の犬小屋は空いてますから」
「その部屋にも暖房、ついてます?」
ちょっとぽっちゃりした可愛らしいショートカットの啓子ちゃんだ。

「ウォッカを樽ごと雪の下に埋めてますよ。 勝手に飲んでください」
と、申し訳なさそうに親指を下にする。
「他の空き部屋は?」
「ありますけど、あなた方ごときに使わせたくありません。 ですから、犬小屋か車で我慢していただくしか・・・」
「どうする?」
三人は顔を見合わせ、話し合い始めた。

「あたしカシスオレンジしか飲みたくない」
亜希ちゃんだ。
「ウォッカにオレンジ混ぜたら良くない?」
可奈子ちゃんが応える。
「きょうのカールおいしーーー。 カールおいしーーー」
啓子ちゃんが、ブツブツ言い出した。
「カールなんかいいでしょ! なにしに来てるのよあんたは。
あたしはソフトクリームが食べたいの、キンキンに冷えたの!」
可奈子ちゃんが怒り始める。

「分かってるけど・・・でも今日はカールのハバネロ味が良いの。 冬限定なんだもん」
ぼくも半袋食べて死ぬかと思ったが、あえて警告はしないことにした。
しばらくもめていたが、結局、ホワイトボードの文字は指でこすったら消えたし、
つまらないいたずらだし、この話題で文字数稼ぐの面倒だということで、彼女達は引き下がって部屋に戻って行った。

「でも、誰がこんないたずらするかしら。理系大学生は泊まってないし・・・」
そう言うと真理は、いたずらっぽい目をぼくに向けた。
「理工学部転籍した、透?」
とんでもないことを言い出す。リーさんがおどろいてぼくを見る。
「冗談じゃないよ。 高専に勝てるわけないじゃないか・・・」
慌ててトンチンカンな抗議した。

「そうよね。 透、バカだから勝てないわよね」
何かひっかかる言い方だが、まあいいとしよう。
その時、フロントの電話が鳴り始めた。
驚いて、リーさんが泣き始めた。

「ったく、リーさんは…はい、チョルチェンです」
「いーよーはせぶらせよー!!!」
代わりに電話を取ったのはいいが、相手が韓国人という事以外よくわからない。
「ムーバー国ムシュタリヵ地方の言語ね。今ようやく駅のあたりまで来ましたって言ってるわ」
なんだ、真理は帰国子女か。
だからカバンによくわからないペーストを詰めていたのか。

2010/08/12

かまうぃたちの夜(復刻版)

第3章 夕食かぁ…
まだロウソクに火をつけて炊き出しを始めたばかりだったが、真理と食堂へと向かった。
食堂のテーブルにはすでに、ナイフやフォークが突き刺さっていた。
女の子三人組やさっき着いた夫婦も、もう先に椅子に座っていた。
真理がさっさと座ったテーブルの下に、ぼくもさっと入る。
蹴られたので仕方なく椅子に座る。
テーブルの真ん中にはクリスマスツリーを模したキャンドルが立っている。その揺らめく小さな炎が、窓の外を見つめる真理の横顔を、ほの赤く照らしている。
「スプレー缶があれば火炎放射器が…」
「透、3日は喋らないで」
………泣いた。
「どうしたの?そんなに泣いたりしちゃって。そんなに感動した?」
………やれやれ。
リーさんの奥さん、今日子さんと、バイトのグリーンさんの二人が、料理を各テーブルに運ぶ。
泊り客は、ぼく達、三人娘、そして遅れてきた夫婦・・・。だけかと思っていたのだが、もう一人、こんなペンションに似つかなわしくない客がいた。
食堂の隅、壁に半分溶け込んでる、ブリーフの男。食事中だというのにシャツもズボンも着ず、あまつさえ蝶ネクタイまでしている。スキー客にはもちろん、仕事で来ている営業マンにすら見えない。
……変態。それがぼくの第一印象だった。
が、よく考えたら、変態が一人でペンションに来るとも思えない。おとなしくスープをすすってるいるその様子を見ていると、みかけと違ってバーローな人なのかもしれないとも思えてくる。
いずれにしてもぼく達の前に料理が運ばれてくると、そんなことはすっかりどうでもよくなってしまった。
「おいしい!」
真理はテーブルに噛り付くと、声をもらした。セルロースとリグニンの見事にマッチングした、スギノキーネとかいうドワーフ料理だ。特に4本の足はほんとうにおいしくて体の奥から暖まるようだった。
その後に噛り付いた壁や床料理も、どれも味、量、共に満足のいくものばかりで、ペンションとしてではなく、お菓子の家としてやって行けそうだと、改めて思った。
「これって叔父さんが作ってるの?」
食後のコーヒーの時、ぼくは真理にたずねた。
「ううん。叔父さんは依頼してるだけよ、料理を作ってるのは大工さんの方。小さい頃から職人になりたかったんですって。」
「ふうん」
「それにね実は叔父さん、家作りがとても下手なのよ・・・」
「・・・・でも大変なんだろうな」
ぼくは感心した。
「そうでしょうね。でもたまたま知り合いに建築士と大工がいてね。コネだけは初めからあったから、そういう面ではそんなに苦労はなかったみたいよ」

そんな会話をしているうちに食事を終えた人々が、三々五々、食堂を出て行く。ぼくのデジタル時計は19:55を示している。
「さてと。私たちもそろそろラーメン屋行きましょっか」
真理が信じられないことを言って立ち上がった。
「まじですか、屋台の鉄骨とか、よだれダラダラやん」

ぼくもそう言い返してホフク前進の準備をした。


「スイスの天気予報聞いてる限りじゃ、ラーメンどころじゃなさそうよ」
裸エプロン姿のグリーンさんが、横から口を挟む。
「当分、ここから出ない方が良いみたい」
うっせぇアルバイター・グリーン、JKかババアかわかんねぇんだよ。
暇なときは日向ぼっこしているのか、顔も髪も髭もすっかり雪焼けして、まるで男のようだ。 …髭? まぁいいや。
「そんなに激しいんですか?」
僕は思わず聞き返した。
「予報を翻訳サイトで訳しながら観てたんだけど、『僕、です。悲しい降る』って言ってたからね」
今度は、もう一人のアルバイト、クボータがやって来た。
クボータは自称小学18年生、サーフィン好きが高じて、単位そっちのけでバイトをしているのだという。身長は屋根を越えていて、戦闘機はもちろん、UFOもたまに打ち落とす体つきをしている。
こういう人の前に立つと顔を見上げるだけで首が痛くなる。鳥の唐揚げヤるから、下に来てほしい。ぼくは真理の反応をうかがった。
真理の方が唐揚げに興味を示している。
…うぜぇ。
「向こうの空まで雲があるから、まぁ2・3日は延びるかも知れないね。」
「もちろん、宿泊代安くするために部屋を一緒に…」
「透、3日は喋らないでって言ったでしょ。」
当然、泣いた。
ホフク前進のまま廊下に出た。

かまうぃたちの夜(復刻版)

第2章 武装ペンション「チョルチェン」
真理とは今年の四月に大学で知り合った。
果敢かつ執ようなストーカーで何度か裁判をする関係にまでこぎつけることができたのは、この春のことだ。
しかし、押しても引いても手応えがなく、いいかげんぼくの一人ずもうのような感じさえしていた。
だから一緒に冬山滑走遊戯に行かないかと彼女の方から誘わせたときには、正直言っておどろいた。
彼女の叔父さんのリー・リョンファンさんという人が、信州でペンションを経営しているのだという。
しかし、少し韓国から離れていて不便なこともありシーズン中もあまり客がこないらしい。
それで中国元で泊めてもらえる、ということで、真理に誘われたのだ。
ぼくはもちろん喜んでOKし、5分前、つまり12月21日ここ信州へとやって来たのだった。
ペンションに帰り着く頃には、もう日はとっぷりと暮れ、よくわからないものが降り始めていた。
リー夫妻の経営する「チョルチェン」は、外見はテント風で、内装はアスベストを基本にしたおしゃれなペンションだった。そういや、さっきから胸が痛い。
料理のメニューも無国籍というかカオスというか、とにかく多彩で、その上、味もよくわからないものばかり。
閑古鳥が鳴くどころか雑誌などにも紹介されて人気も出てきているらしい。
暇だから台湾ドルで…。
というのは、リーさんがぼく達に気をつかわせまいとして言ったのだと今到着してから気づいた。
ぼくと真理の部屋は残念なことに、というか当然、というべきか、別々にとってある。
でも、ごく自然に後をついて行った。
「ついて来ないで変態。」
真理に一蹴された。その言葉に少しときめいた。
仕方なく部屋に戻り、日課の聖地に向かってのお祈りをやり始めた。
「邪神モータス様、哀れな子羊に祝福を…」
自分で言いつつ、何か可笑しな気がした。
30分お祈りした頃、ノックの音が響いた。
「もう夕食よ」

かまうぃたちの夜(復刻版)

第1章 ゲレンデ真っ赤っか
ようやく覚えた柱乗り(タオパイパイ直伝)でなんとかレストハウスまでたどり着き、ぼくは一息ついていた。真理はそんなぼくの目の前でけたたましく叫びながら鮮やかに僕の脇腹にスキー板を突っ込んだ。
ゴーグルが粉雪まみれになって明日が見えない。
「あは、透ったら血だるまみたい」
真理の笑い声が聞こえる。
ぼくはゴーグルをはずしながら体についた雪を払い落とした。
「いいからスキー板抜けよメス豚。ラーメン食えねぇだろ。太るから飯食うなってか?」
「そういう意味じゃないってば。…でも、ま、恨みがあるのは確かかもね」
真理もゴーグルをはずし、笑顔を見せた。
数時間ぶりに見るその笑顔は、壁の向こうから顔をのぞかせている変態のようだ。
ぼくはあらためて真理を見た。
半袖のスキーウェアに長い黒髪がよく映えている。
どんな難所も軽々と滑り落ちる彼女は、ゲレンデでも注目の的だった。
誰しもがそのゴーグルの下に、美しい顔を期待したはずだと思う。
男とはそういうものだ。
真理なら、とぼくは思った。
真理なら、誰の期待も裏切らないに違いない。
さっきから雪国育ちの真理にさんざんスキー板を体中に突き刺されてうんざりしていたぼくだったが、今だけは誇らしい気持ちになった。
青いスキーウェアが紫になって何が悪い。
ぼくは彼女の素顔だけでなく、分厚いスキーウェアの下に隠されたスタイルがどんなにエロいかということも知っている。
「もう一回だけ滑ろ?」
「ええっ?まだ突き刺すの?」
ぼくはグッタリして聞き返した。
「そんなこと言わないでさ、ね?あと一回だけ。一回だけいいでしょ?」
真理はとっておきの笑みをぼくに向け手を合わせた。
ぼくはこの手合わせに弱い。
「もう帰ろうよ。それにほら、服だってないし」
ぼくはそういって、スキーウェアを脱いだ。
嘘じゃなかった。
さっきまで着ていたシャツやスーツやネクタイは、滑ってる最中に脱ぎ散らかしていた。
周りの視線が、黒く重くのしかかるように感じられる。
「ほんと。今夜は吹雪くかもしれないわね」
真理は眉をひそめた。
「…じゃあ、パンツだけ回収して戻ろっか」
ぼく達は真理の叔父さんの小林さんに借りたF22に乗り込んだ。

暑い夜に

第1章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/blog-post.html

第2章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/2.html

第3章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/httpyamasan-net.html

第3章(後編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/3-2.html

第4章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/httpyamasan-net_07.html

第4章(後編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/4-2.html

第5章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/5.html

第6章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/6.html

第6章(後編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/6-2.html

第7章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/7-1.html

第7章(後編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/7-1_16.html

第8章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/8-1.html

第8章(後編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/8-2.html

第9章(1)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/9-1.html

第9章(2)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/9-2.html

第9章(3)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/9-3.html

第10章(1)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/10-1.html

第10章(2)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/10-2.html

第10章(3)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/10-3.html

第10章(4)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/10-4.html

第11章(1)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/11-1.html

第11章(2)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/11-2.html

第11章(3)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/11-3.html

第12章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/12-1.html

第12章(後編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/12-2.html

第13章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/13.html



第14章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/14.html



第15章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/15-1.html



第15章(後編)

http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/15-2.html



第16章(前編)

http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/16-1.html



第16章(後編)

http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/16-2.html



第17章

http://yamasan-net.blogspot.com/2009/09/17.html

2010/08/09

清水町:第2R

さて、水着がやばそうな感じで終始戸惑いました、第2R。



終わってみれば某選手権の標準記録を突破できず、何しに行ったのやら。



(・_・) まぁ、楽しめたから良いかと。

2010/08/07

情熱家

たまに言われる。

2010/08/01

後の祭り

本日のメイン1:
S125m x 1 EN2 ]
S 75m x 1 EN3 ]
S 25m x 1 AN1 ]
S 25m x 1 Easy ] x 4set

今日は近くの川沿い?で花火大会なのか、祭りがあったようです。

練習終わったらちょっと行こうかと思い、早めに切り上げたつもりが。

祭りから帰り行く車と人の行列。

これぞまさに後の祭り

おととい届いた健康診断結果のウエスト63以来のショック。

あ、祭りについてきてくれる子、大募集。