2010/08/15

かまうぃたちの夜(復刻版)

第11章 犯人と夘人
警察だ!
そんな当然のことに、今までぼくは気がついていなかったのだ。
あまりに激しいものを見せられたせいで、普段の思考ができなくなっていたようだ。
それはリーさんも同じだったらしく、慌てた様子で奥に消えて行くと、地図とレーザーポインターを持って帰ってきた。

地図を見ながら窓の外を覗き、レーザーでモールス信号をする。
しかし、すぐにこっちに戻ってきて叫んだ。
「駄目だ。 何も反応がない。 警察署の方向にモールス信号を送っているのに!」
「な、なんやて!」
香山さんは立ち上がって叫んだ。

「そら困るで!」
「多分、ポリスメンがびびってるんでしょう」
リーさんはレーザーポインターの先を、憎々しげに見つめている。
こいつら、早く何とかしないと・・・・・・!

どうすればふもとの警察署まで光が届かない常識を彼らに教えることができるか、考えがまとまらなかった。
レーザーモールスしかないということは、明日になり、吹雪がやまない限り、警察に連絡できない。
・・・・・・だけでなく、明後日の心理学の再テストにも間に合わないということだ。

香山さんは突然、笑い出した。
「あ、そや。わし、携帯電話があるんや。あれをつこたらええわ」
しかし、リーさんはにべもなく言った。
「無駄ですよ。香山さん。 このあたりは邪魔だったんで私が全部撤去したんですよ。 半径50キロは圏外のはずです」
狂ってる、みんな心の底から思ったに違いない。

「そ・・・・・・そしたら、一体どないしたらええんや。 変態を仕留める超変態がこの辺りうろついとるっちゅうのに」
超変態・・・・・・。
その言葉に、ぼく達は虚をつかれたような思いだった。
変態がやられた事実に気を取られ、あれがまぎれもなく変態を超えし者の仕業であることなど考えもせず、カマウィタチだのカヤマだのと騒いでいたのだ。

いや、わざと考えないようにしていたのかもしれない。
しかし、あれが事故や自殺であろうはずがない。
変態vs超変態だと考えるのが一番自然だ。
あ、いや、やっぱり不自然か。

誰かが、変態の蝶ネクタイを取り、首をいろんな方向に折り曲げたのだ。
そして香山さんのいうとおり、この天候を考えると、その犯人はまだこの辺りにいる可能性が高い。

「この天気で、山を降りることはできますか?」
ぼくが尋ねると、リーさんが縦に、クボータさんが横にほとんど同時に首を振った。
「OK牧場だよ」
「無理だろ」
「・・・無理だろ!! ばかちんが!!」
リーさんがクボータさんの意見に音速で乗っかった。

「さっきミッキモーさんがたどり着いたのだって、奇跡みたいなもんだよ。
歩いて降りたら警察著前で凍死、車だったら警察署の駐車場で凍死しかねない。」
「じゃあ、犯人は、このペンションの中に隠れようとするんじゃないでしょうか? 生き延びる為それはないでしょう?」
全員が息を呑んだ。
泣いていたブタ子さんでさえ、一瞬泣き止んで恐怖の表情を見せた。

クボータさんは怒ったように立ち上がる。
「じゃあ・・・・・・じゃあ、何か? 俺が冷えたビール買って来ない限り、安心できないってのか? 冗談じゃない!」
「そらそうや。 ビール飲まな寝られへんっちゅうか。 何とかせな。」
香山さんも、大きくうなずく。

「何とかって・・・・・・どうするんです」
リーさんが当惑した様子で聞き返した。
「そら、こっちも対抗できる武器持って戦うしかないやろ。 警察に来てもらえん以上、自分らで身を守るしかないやないか」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
見かけによらず情けない声をだしていたのはミッキモーさんだった。

「あんな変態をも倒す超変態ですよ? 下手に手を出すより、ここでみんなでじっとしてた方がよくありませんか? これだけ人数がいれば、どんな凶悪犯だって、手出しはできないでしょうし・・・・・・」
「じゃああんたは、このままここでずぅっと起きとけっちゅうんかいな。寝とる間に、尻触られるかもしれへんのやで」
香山さんがとんでもないことを言い出すものだから、男子一同ガタガタ振るえた。

ぼくは慌てて口を挟んだ。
「いや、ぼくはそっちの気はないんで、勘弁してくれるはずでしょう。 念のためベルトに南京錠を付けておけば脱がされないはずですけど・・・・・・。」
「南京錠ったって、ベルト引きちぎられたらしゃあないやないか」
「まさか! 一体どうやって皮ベルトをちぎるって言うんです?」
リーさんは驚いて声をだした。

「そんなことわしゃ知らん。 そやけど、ハサミとかカッターとかでも切れるんちゃうか。 わしらが寝てる間やったら、気づかんように試せるやろ?」
「でも・・・・・・でも・・・・・・」
リーさんは両手を挙げて天井を見つめる。
「そやから、はよ武器持って捜索した方がええんやて。 ポケモンGetするのと似たようなもんやから」

「話を戻しましょう。 犯人は窓から外へ逃げたんじゃないですか? だって、ドアの鍵はかかったままだし・・・・・・」
ぼくは当然だと思っていたことを言った。
「そんなことわかるかいな。 ドアに何かして閉めたかもしれへんし。
たまに鍵入れっぱなしで締まるドアとかあるやん。 なんか、そんなノリかも知れへん。」

確かにドアに関しては香山さんの言う通りだった。
たまにオートロックでもないのに、うっかりロックできるドアがある・・・・・。
『チョルチェン』の客室のドアは、うっかりハティベェタイプだった。
だから、鍵が締まっていたからといって、犯人が窓がら逃げたとは限らない。
とはいっても、二階の部屋はさっきみんなで調べたばかりだ。

誰か見知らぬ人がいれば気がついたはずだ。
「なんにしても、みんな何か、武器になるを持ったほうがいいんじゃないかしら?」
ライフルの銃口を覗きながら黙り込んでいた真理が、口を開いた。
僕は真理の提案に驚いたが・・・・・・。

「そら言えてる。イザっちゅう時のためやな」
「さっそく、用意しよう」
みんなはすぐにその意見に賛成した。

・・・・・・といったってこんなペンションのこと、武器なんてあるわけもない。
結局みんなが手にしたのは、ショットガン、ライフル、閃光弾、そして日本刀。
爆竹なんかはかえって危ないというのでこんなものになってしまったが・・・・・・。
頼りないことこのうえない。

「何人かでチームを組んで、しらみつぶしに調べるんや。閃光弾投げ込んで、一斉に部屋突入して、制圧する・・・・・どこに隠れとるか分からへんのやで」
いつの間にか香山さんがリーダーシップを取っている。
やはりそこは社長だからだろうか。

男は五人。
ぼく、ミッキモーさん、リーさん、クボータさん、香山さん・・・・・・これで全部。
女性陣は見送りだ。
壁中に犯人のわら人形を五寸釘で打ち付けてもらいたい気分だった。

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