2010/08/13

かまうぃたちの夜(復刻版)

第7章 遅れてきた客
本当に客だったのだろうか?
疑いながら上に行こうとすると、真理に止められた。
「何も聞こえなかった。 いいわね?」
「はい」
ぼくは震える足を抑えつけ、おとなしく座りなおす。

全身から出る汗を拭いていると、自転車の近づいてくる音がした。
LEDライトだ。
急速に近づいてきて、チェーン音も聞き取れるようになった。
このあたりには他に家もないし、どうやら遅れてきた客のようだ。

案の定、玄関外側のドアと衝突してドアごと木端微塵になり、慌ててリーさんが修理しだした。
やがてリーさんを避けて玄関から髭面の人が入り、二重になったドアの内側のカギを閉めた。リーさんが締め出された。
「すいません!ミッキモーですが!どなたかいらっしゃいますか!」
ガマ声がこちらまで響く。

「ミッキモーさん、ですね? 開けてくれませんか。」
リーさんが、内側のドアを叩きながら言う。
大柄な男の客は仕方なくロックを外した。
リーさんは、倒れこむように中に入ると、慌ててコーヒーを持ってきてほしいと言った。

「いやー、何でそんなとこに居たんですか? 馬鹿なんですか? まるで役に立たないんですか・・・?」
ミッキモーと呼ばれた男の人は、フロントで記帳しながら、喋り続けた。
ミッキーマウスみたいな名前に似合わぬ、ひげ面の、いかにも山男と言った感じの人だった。
「夕食はおわりましたんですが、カップめん程度のものならご用意できます。お作りしましょうか?」
リーさんが尋ねる。

「ラ王!?・・・あ、いえ、途中でエンジンとかぱくつきましたから、お腹は空いてません。おかげで積み荷のチャリで来ましたから、何かあったかい飲み物でもいただけると、うれしいんですが」
「コーヒーとか紅茶みたいなものがよろしいですか?スープもありますが?」
「それじゃあ、紅茶を下さい」
「じゃあ、駅前の自販機で買ってきて下さい。 車で1時間程度ですので・・・」
「あ、やっぱり結構です」
ミッキモーさんはちらりとこちらを見てうなずく。
何の合図なんだ?

「そうですか。じゃあ、これが鍵です。 ダイヤル式なんで意味ありませんが、気にせず上がってください。」
リーさんに鍵を渡されるとミッキモーさんは自転車のサドルだけ担いで、二階へと昇って行った。
鳩時計が一回だけ鳴る。
8時半だ。
「あ、ゴメン。ビールは僕が持ってるから、倒せたら飲んでくれていいよ。」
ぼくらに声をかけると、リーさんはまた食堂に戻っていった。

「ほな、誰が取りに行くか、インジャンで決めへんか? …あ、こっちやとジャンケンっやったな。」
香山さんがそう言いだした。
「あ、ビール派が三人いることですし、グーとパーで決めません? それなら確実に一人選ばれるでしょうし」
真理が提案する。
なるほど、それならグーかパーが一人だけになるから、一回で決められるな。

「よし、じゃあ、やりましょうか。」
「ほな、いくで。 グーとパッ!!」
ぼくは直前まで真理が手を握ってるのが見えたんで、グーを出した。
「ありゃ、兄ちゃん、負けよったなぁ・・・・・」
香山さんはチョキを出してた。
「残念ね、透」
真理もチョキを出してた。
何なの、こいつら?

「頑張って取りに行ってな!」
香山さんが言った。
真理もヨダレをボタボタ垂らして、早くビールちょうだいという目で見てくる。

仕方なく、リーさんと殴り合いながら、鼻血ボタボタでビールを奪取した。
格闘より、戦利品を持って帰ったぼくに向かって、
「あの程度の拳法家に鼻血出さないで、気持ち悪い」
という真理の言葉の方が絶望的だった。

リーさんの奥さん・・・・・スプリンガーさんは、飲めないのか飲みたくないのか、手を出さない。
「ぷはーっ、こういう寒い時に、暖かい部屋で温かいビールを飲むんが最高の贅沢やな。」
香山さんはニコニコしている。
「え? 温かい? 馬鹿なの?」
ぼくは逆らった。
「最高の贅沢なんていったら、赤道直下で焼き土下座しながら冷えたビール飲むことでしょうが、何言ってるの馬鹿ちん。」
「いや、そら違うな。女房と飲むビールが最高やわ」
「違いますね。真理を椅子代わりにして飲む方が・・・」
「もう!いい加減にしてよ!なんで透ごときの椅子にならきゃいけないわけ?黙って飲みなさいよ」
真理に怒られた。
「・・・・・タイヤ顔のくせに!」
ポツリと言い返す。

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