2010/08/12

かまうぃたちの夜(復刻版)

第1章 ゲレンデ真っ赤っか
ようやく覚えた柱乗り(タオパイパイ直伝)でなんとかレストハウスまでたどり着き、ぼくは一息ついていた。真理はそんなぼくの目の前でけたたましく叫びながら鮮やかに僕の脇腹にスキー板を突っ込んだ。
ゴーグルが粉雪まみれになって明日が見えない。
「あは、透ったら血だるまみたい」
真理の笑い声が聞こえる。
ぼくはゴーグルをはずしながら体についた雪を払い落とした。
「いいからスキー板抜けよメス豚。ラーメン食えねぇだろ。太るから飯食うなってか?」
「そういう意味じゃないってば。…でも、ま、恨みがあるのは確かかもね」
真理もゴーグルをはずし、笑顔を見せた。
数時間ぶりに見るその笑顔は、壁の向こうから顔をのぞかせている変態のようだ。
ぼくはあらためて真理を見た。
半袖のスキーウェアに長い黒髪がよく映えている。
どんな難所も軽々と滑り落ちる彼女は、ゲレンデでも注目の的だった。
誰しもがそのゴーグルの下に、美しい顔を期待したはずだと思う。
男とはそういうものだ。
真理なら、とぼくは思った。
真理なら、誰の期待も裏切らないに違いない。
さっきから雪国育ちの真理にさんざんスキー板を体中に突き刺されてうんざりしていたぼくだったが、今だけは誇らしい気持ちになった。
青いスキーウェアが紫になって何が悪い。
ぼくは彼女の素顔だけでなく、分厚いスキーウェアの下に隠されたスタイルがどんなにエロいかということも知っている。
「もう一回だけ滑ろ?」
「ええっ?まだ突き刺すの?」
ぼくはグッタリして聞き返した。
「そんなこと言わないでさ、ね?あと一回だけ。一回だけいいでしょ?」
真理はとっておきの笑みをぼくに向け手を合わせた。
ぼくはこの手合わせに弱い。
「もう帰ろうよ。それにほら、服だってないし」
ぼくはそういって、スキーウェアを脱いだ。
嘘じゃなかった。
さっきまで着ていたシャツやスーツやネクタイは、滑ってる最中に脱ぎ散らかしていた。
周りの視線が、黒く重くのしかかるように感じられる。
「ほんと。今夜は吹雪くかもしれないわね」
真理は眉をひそめた。
「…じゃあ、パンツだけ回収して戻ろっか」
ぼく達は真理の叔父さんの小林さんに借りたF22に乗り込んだ。

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