2009/08/30

かまうぃたちの夜(12-1)

第12章 犯人よりも犯人らしく
「私の愛刀が錆びさせないように気をつけてね」
真理の一言だけが心の支えだ。
「どこから手をつけるのがいいかな?」
リーさんが誰にともなく尋ねた。
ぼくは言った
「一階から調べましょう」
一階には、談話室を除くと・・・・・・。
食堂とキッチン。
グリーンさん、クボータさん達のスタッフルーム。
リーさん夫婦の部屋。
手術室なんかがある。
それらを一つ一つ見て回る。
リーさんがノブを握ると、ぼくとミッキモーさんがスタンガンでノブに電気を流し、リーさんごと閃光弾を部屋に押し込む。
「いいか、開け…ピギャーーーー!!!! ぁおっ、あっーーー!!!!」
リーさんごと閃光弾が炸裂したところで、リーさんはベッドのあたりで痙攣する。
そしてぼく達は、ライフルと対空用ミサイルを構えながら、中へと入ってゆくのだ。
そうやって一つ一つの部屋を、ベッドの下まで捜索して行った。
全員が一つの部屋に入ったのはでは、その間に逃げられる恐れがあるというので、中を調べるのはぼくとミッキモーさんだけ。
最初はびくびく痙攣していたリーさんだったが、同じことを繰り返すうち、だんだん泡を吹くようになって来た。
ミッキモーさんも面白いらしく、閃光弾を2個リーさんのポケットに押し込んで突き飛ばしたりしていた。
「どんな奴が出てきても、リ、リーさんごと投げれば大丈夫ですよね」
「そ、そうだよ。 リーさん投げれば」
一階では2~3人見知らぬ人とすれ違ったが、挨拶してくれたので関係ない人達だろう。

2009/08/29

かまうぃたちの夜(11-3)

第11章 犯人は誰だろう
(3)
「そやから、青い鳥はおらんって昔っから言うとるやろ? 窓から入ってくるって言うて高層ビルの窓叩き割った頃と変わらんな? 裏手をあんまり除雪せんと二階の窓から木箱吊してるんも鳥の巣代わりっちゅうことやな」
「話を戻しましょう。 犯人は窓から外へ逃げたんじゃないですか? だって、ドアの鍵はかかったままだし・・・・・・」
ぼくは当然だと思っていたことを言った。
「そんなことわかるかいな。 ここのドアは隠しボタン式の鍵やで。 入って来たんは窓でも、その後はどこかにあるボタンを押して閉めたら済むことや。 二階の空き部屋に隠されてるかも知れへんし、わしもようわからん」
確かにドアに関しては香山さんの言う通りだった。
ロックしようとすれば、ロックされる・・・・・・。
『チョルチェン』の客室のドアは、すべてそのタイプだった。
だから、鍵がしまっていたからといって、犯人が窓がら逃げたとは限らない。
とはいっても、二階の部屋はさっきみんなで調べたばかりだ。
2~3人見知らぬ人とすれ違ったが、まぁ騒ぎを聞きつけて数キロ離れた家から駆けつけてくれた、とても親切な野次馬としか考えにくい。
「なんにしても、みんな何か、破壊兵器になるものを持ったほうがいいんじゃないかしら?」
愛刀の手入れをしていて黙り込んでいた真理が、口を開いた。
僕は真理の提案に驚いたが・・・・・・。
「そら言えてる。イザっちゅう時のためやな」
「さっそく、用意しよう」
みんなはすぐにその意見に賛成した。
・・・・・・といったってこんなペンションのこと、武器なんてあるわけもない。
結局みんなが手にしたのは、対空用のミサイル、マシンガン、そしてライフル。
ナパーム弾なんかはかえって危ないというのでこんなものになってしまったが・・・・・・。
頼りないことこのうえない。
「何人かでチームを組んで、しらみつぶしに調べるんや。閃光弾投げ込んで、一斉に部屋突入して、制圧する・・・・・どこに隠れとるか分からへんのやで」
いつの間にか香山さんがリーダーシップを取っている。
やはりそこは社長だからだろうか。
男は五人。
ぼく、ミッキモーさん、リーさん、クボータさん、香山さん・・・・・・これで全部。
玄関のあたりで見知らぬ男が2~3人雑談しているが、たぶん客でも従業員でもないので、カウントしない。
女性陣は見送りだ。
壁中に犯人のわら人形を五寸釘で打ち付けてもらいたい気分だった。

2009/08/28

かまうぃたちの夜(11-2)

第11章 犯人は誰だろう
(2)
「さっきミッキモーさんがたどり着いたのだって、奇跡みたいなもんだよ。 歩いて降りたら途中で凍死、車だったら運がよくても沢に転落。運が悪けりゃ沢に転落しかない。 だから、非常用に脱出路を毎年雪の下に掘ってるんだけど、麓まで掘る前に雪が溶け出すんだ。」
「じゃあ、犯人は、このペンションの中に隠れようとするんじゃないでしょうか? 生き延びる為それはないでしょう?」
全員が息を呑んだ。
泣いていたミッキモーさんでさえ、一瞬泣き止んで恐怖の表情を見せた。
クボータさんは怒ったように立ち上がる。
「じゃあ・・・・・・じゃあ、何か? 俺が麓まで脱出路を掘らない限り、安心できないってのか?冗談じゃない!」
「そらそうや。人殺しがおるかもしれんっちゅうのに安心して堀り終えるん待ってられへん。何とかせな。」
香山さんも、大きくうなずく。
「何とかって・・・・・・どうするんです」
リーさんが当惑した様子で聞き返した。
「そら、こっちも糸コン殺法を覚えるしかないやろ。警察に来てもらえん以上、自分らで身を守るしかないやないか」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
見かけによらず情けない声をだしていたのはミッキモーさんだった。
「あんな柔らかいものを人の頭に突き刺す殺人コン使いですよ? 下手に手を出すより、ここでみんなでじっとしてた方がよくありませんか? これだけ人数がいれば、どんな凶悪犯だって、手出しはできないでしょうし・・・・・・」
「じゃああんたは、このままここでずうっと起きとけっちゅうんかいな。寝とる間に、こんにゃく投げられるかもしれへんのやで」
香山さんがとんでもないことを言い出すものだから、女の子達はポン酢片手にますますヨダレを垂らした。
ぼくは慌てて口を挟んだ。
「いや、お化け屋敷でもこんにゃくは定番ですけど、投げはしないでしょう。 冷蔵庫のこんにゃくだけはしっかり処分しておく必要があると思いますけど・・・・・・。」
「処分ったって、もう持ち出されとったらしゃあないやないか」
「まさか! 一体いつ持ち出したって言うんです?」
リーさんは驚いて声をだした。
「そんなことわしゃ知らん。 そやけど、現にこんにゃく凶器に人殺されとるやないか。わしらが気づかんうちに、持ち出したっちゅうことやろ?」
「でも・・・・・・でも・・・・・・」
リーさんは幸せの青い鳥を探して天井を見る。

2009/08/26

かまうぃたちの夜(11-1)

第11章 犯人は誰だろう
警察だ!
そんな当然のことに、今までぼくは気がついていなかったのだ。
あまりに激しいなものを見せられたせいで、普段の思考ができなくなっていたようだ。
それはリーさんも同じだったらしく、慌てた様子で奥に消えて行くと、紙コップと糸を持って帰ってきた。
糸を柱にくくりつけ、紙コップとつなげて耳に当てる。
しかし、すぐに糸をピンピン弾いて振動させ始めた。
「駄目だ。何も音がしない。警察署まで糸が通じてない!」
「な、なんやて!」
香山さんは立ち上がって叫んだ。
「そら困るで!」
「多分、どこか途中までしか糸が届いてないのでしょう」
リーさんは音のしない紙コップを、憎々しげに見つめている。
こいつら、早く何とかしないと・・・・・・!
どうすれば一般常識を彼らに教えることができるか、考えがまとまらなかった。
糸電話しかないということは、明日になり、吹雪がやまない限り、警察に連絡できない。
・・・・・・だけでなく、バイト先に連絡することもできないということだ。
香山さんは突然、笑い出した。
「あ、そや。わし、紙とビンがあるんや。あれをつこたらええわ」
しかし、リーさんはにべもなく言った。
「無駄ですよ。香山さん。 このあたりは川や海のような流せるものがないんです。雪崩に乗せない限りは使えません。」
いや、それ以前に警察に届くのは何年先だって突っ込めよ。
「そ・・・・・・そしたら、一体どないしたらええんや。人に糸コン突き刺す殺人コン使いがこの辺りうろついとるっちゅうのに」
殺人コン使い・・・・・・。
その言葉に、ぼく達は虚をつかれたような思いだった。
糸コンの束に気を取られ、あれがまぎれもなく名もなき変態に突き刺す高等技術であることなど考えもせず、カマウィタチだのプラズマだのと騒いでいたのだ。
いや、わざと考えないようにしていたのかもしれない。
しかし、あれが事故や自殺であろうはずがない。
殺コン法だと考えるのが一番自然だ。
あ、いや、やっぱり不自然か。
誰かが、変態の蝶ネクタイを取り、それを糸コンに巻いて頭に刺したのだ。
そして香山さんのいうとおり、この天候を考えると、その犯人はまだこの辺りにいる可能性が高い。
「この天気で、山を降りることはできますか?」
ぼくが尋ねると、リーさんとクボータさんがほとんど同時に首を振った。
「無理だろ」
答えたのは、クボータさんだった。

2009/08/25

かまうぃたちの夜(10-4)

第10章 マネキンをコート掛けのように
(4)
「じゃあ脅迫状はどうなるのよ。あれを書いたのは人間でしょ?」
「え、でも・・・・・だって・・・・・」
亜希ちゃんは困ったような顔のまま、また泣き出した。
「なあ、さっきから聞いとるけど、脅迫状、脅迫状って、一体何のことや?」
香山さんがたまりかねたように口を挟む。
リーさんは、一瞬ぼくにウィンクした。
が、軽く無視されたのにすぐに気づいたか、ぼつぼつと、脅迫状の一件を話し始めた。
「実はですね・・・・・・なんかぁ・・・さっきぃ・・・こんや12にぃ・・・こんにゃくがどうっとかってぇ・・・紙があってぇ・・・ちょー怖いじゃん? だからぁ・・・こんなイタズラぁ・・・みんなにぃ・・・知れたらぁ・・・怖ぇなぁなんて思ってぇ・・・隠したんスよぉ・・・。 俺ぇ・・・こんなことならぁ・・・言っときゃよかったてぇ・・・思うんス・・・」
聞き終わったあとしばらく、全員が絶句していた。
「そんなことが・・・・・・あったんですか、ってかウザイ・・・」
ミッキモーさんがつぶやく。
「そういうことも、ちゃんと言えんのかリーさん。若者みたいでかなんなあ・・・・・・」
香山さんが、ため息交じりでぼやく。
「・・・・・・でも済んでしもたことはしゃあない。 とにかく上にあるのがホンマに糸コン刺さった変態なんやったら、はよ警察に連絡せなあかんわな」
警察!

2009/08/24

かまうぃたちの夜(10-3)

第10章 マネキンをコート掛けのように
(3)
しばしの沈黙の後、リーさんは鼻で笑った。
「だから盗撮専門のあなたがここに来たわけですか? 馬鹿馬鹿しい」
真理も口をはさむ。
「そうよ、このかまうぃたち野郎、存在自体が不自然なのわかる? 真空状態の中に捨てて、息の根止めたいんだけど」
しかしミッキモーさんは動じなかった。
「一応撮った後は相手に撮ったって伝えてる。でも、妖怪か悪魔か分からないが、何かケダモノ以上の扱いを受けるのは確かなんだ。」
「でも、半裸になったり、服が裂けたりするってのは聞いたこともありませんし、人間の頭に糸コンが刺さるのとは関係あるとは思えませんが」
ぼくは言った。
「いや、ぼくも妖怪のしわざにして、どんな顔の時にシャッター押すか考えてたんだ。・・・・・・そんな顔をしないでくれ。ぼくは別に、ネットにUPしたいわけじゃないからね。仮にUPすると考えてみよう。この画像を見てみろよ。これほど激しい画像なら、めったにブログを見に来てくれない人が食いついても不思議じゃない。そう思わないか?」
窓ガラスを割り、そこからミッキモーさんを放り出したい・・・・・・。
そんな風なことを考えてしまった。
「プラズマよ! プラズマのしわざだわ」
ずっと脅えた表情をしていた亜希ちゃんが叫んだ。
「亜希・・・・・・。プラズマってなによ。」
啓子ちゃんがいぶかしげに尋ねる。
「よく分からないけど・・・・・正電荷と負電荷がほぼ同密度で分布している状態だったと思うわ。 それだと説明がつくもの」
プラズマの定義はどうでも良いと思うが、亜希ちゃんは言い切れた嬉しさからか、一人うなずいている。

かまうぃたちの夜(10-2)

第10章 マネキンをコート掛けのように
(2)
「そう・・・・・・だと思います。 形が全然違うから、よくわかんないけど、あの変態に突き刺さってたのは糸コンだったと思います」
突然、グリーンさんは目を細めた。
「それってもしかして、建設現場で使われる工事用糸コンだったんじゃないの? それともあの変態さんは、食用糸コンで殴られたの?」
「人間が食用糸コンで死ぬわけありませんよ」
僕は糸コンの断面がのぞいていたのを思い出し、身震いした。
「でもさー、映画なんかのアニメ技術って最近、すごいじゃない? ベッドの上のコニャっていうやつなんか面白いじゃないの」
何言ってるのか全然わからないが、だんだん自信がなくなって来る。
「・・・・・・あれはベッドの上の変態だ。 間違いない。蝶ネクタイで束ねられた糸コンが突き刺さってた」
リーさんが断言すると、可奈子さんはまた声を上げた。
「やっぱりあの脅迫状はほんとだったのよ!あたし帰りたい!」
こいつらの話がかみ合ってない事には誰も触れなかった。
「そういえば・・・・・ぼく、聞いたことがあるよ。 ・・・・・かまうぃたちのこと」
ミッキモーさんが、唇にリップを塗りながら話し出す。
「かまうぃたち?」
ぼくは聞き返した。
「あぁ、知ってるだろ? このあたりでは昔から、何もないところで突然服が切り裂かれたり、半裸になったりすることが知られていたんだ。 土地の人達は、すっげぇエロいイタチ野郎のしわざだと考えて、かまうぃたちと呼んだ」
ミッキモーさんは低い声で話すと、ぼく達の顔を見回した。

2009/08/23

かまうぃたちの夜(10-1)

第10章 マネキンをコート掛けのように
窓とベッドの間は、少し開いている。
そのすき間に、あの変態がねずみ色の糸のようなものを頭に乗せて挟まっていた。
風でプルンプルン揺れる糸状のもの。
その上に無造作にかけられたポン酢。
そして糸状のものの近くには塩コショウが落ちている・・・・・・。
ラーメン屋に行くと塩コショウがテーブルに置かれていて、結局使わずに食べることがある。
それらの調味料はまるでそんなふうに置いていた。
「何てこった・・・・・・こりゃあ・・・・・・こりゃあ・・・・・・糸コンだ。細くなったこんにゃくだ!」
リーさんはもはや全身に吹き付けるよくわからないパウダーも気にならない様子で、叫んだ。
ぼくと真理はコイツ何言ってんのと思いつつ、パウダーの積もり始めたその糸コンの突き刺さった変態を見ながら立ちすくんでいた。
・・・十秒後。
ペンション『チョルチェン』の泊まり客とスタッフは全員、一階の談話室に集まっていた。
正確には、あの糸コンが突き刺さった変態客を除いて全員ということになるが・・・・・・。
糸コン野郎を見たのはぼくと真理、それにリーさんだけだった。
後ろの人は、リーさんが部屋から追い出してしまったからだ。
ぼく達三人は、見たものを説明できるほどの余裕もなく、ただ脅えながら熱いビールをすするのが精一杯だった。
「ねえ、いい加減何があったのか教えてくれてもいいんじゃないの?」
いらついた口調でグリーンさんが言った。
ぼくはリーさんをチラリと見たが、グリーンさんの言葉が耳に入っている様子もなかった。
僕は喘ぎながら答えた。
「あん、あぁん、ダメ・・・みんなが帰ってきちゃう・・・糸コンさんも・・・・・帰ってきちゃう・・・・・・」
ごくりと誰かの唾を飲む音が聞こえる。
「糸コンさんって・・・・・・誰?」
グリーンさんは、悪い冗談だとでも思ったのか、鋭く聞き返す。
「うぅんん、糸コンさんも何も・・・・・・」
知らず知らず、声が上がり、甲高く叫ぶような調子になっていた。
「・・・・・・帰ってきちゃまずいでしょ! 真昼の、情事が、みんなに、知れたら一大事でしょう!」
「いやーん!」
女の子の誰かが、そう叫んで泣き出した。
見ると、可奈子さんだ。
「・・・・・・あの変態に何かあったの、というか透くん何か嫌なことがあったの?」
グリーンさんが、小声で聞く。

2009/08/21

かまうぃたちの夜(9-3)

第9章 鳩のなく夜
(3)
香山夫妻、ミッキモーさん、そして女の子三人組もそれぞれの部屋から出て来る。
その顔を見れば、何もなかったらしいことは読心術の心得があるから分かる。
やがてぼくの部屋を調べていたらしいリーさんも、ぼくのシャツを着て廊下に出てきた。
「みなさん、異常ありませんでしたか?・・・・・・とすると、後は一部屋しかないな。」
そういって、ある扉を見つめる。
あの変質者のような男の部屋なのだろう。
ぼく達は自然とリーさんを取り巻くように立っていた。
それより、ぼくの「牛肉反応センサ付き」と書かれたシャツを何で着てるの?
あの変態の部屋から牛肉の匂いがするの?
「そういえば、あの脅迫状、もしかしたらあの人が書いたのかもね。」
真理が、ぽつりともらす。
「どういう意味?」
「この部屋でこんにゃくを外気にさらしてるのかも・・・・・・」
他の人達には聞こえないよう、手話で語る。
みんなに注目されているのに、なぜに手話・・・・・・?
「まさか。それに、まだ9時過ぎだよ? あの脅迫状じゃ、予告時間は12時じゃないか」
「そうだけどさ。だいたい犯行予告なんてのは、天気予報と同じで、大体こんな感じですって出すものでしょ。透、カシスオレンジとか飲んだことあるでしょ?」
こいつ、何言ってんの。
「お客様!出てこい変態!」
リーさんは、取り立て屋のようにガンガンと、扉を強くノックした。
しばらく待つが、返事はない。
耳を澄ましていると、中から何かが風であおられているような音がする。
「おい、お客!」
リーさんはガンガン扉を蹴りだしたが、やはり返事はなかった。
「やっぱりうちの子に何かあったみたいですね。」
ぼくは言った。
言ってて何かおかしいと感じたが、まぁ良いとしよう。
リーさんはうなずくとぼくの手を握る。
「だめだ。 心の鍵がかかってる。」
リーさんはちょっとだけためらったが、やがてぼくの服を脱がし始めた。
ブチりと堪忍袋の緒が切れて、ドアごとリーさんを蹴飛ばした。
「失礼します」
リーさんはベッドのあたりでうずくまりながら、一応そう言った。
が、室内を見た途端、その部屋がおかしいことはみんなに分かった。
ドアのあったところから、ひどい冷気とともに、一陣の風がぼくたちの間を吹きぬけたのだ。

2009/08/20

かまうぃたちの夜(9-2)

第9章 鳩のなく夜
(2)
「・・・・・・あの、べジタリアンの方ですか?」
亜希さんがミッキモーさんに質問した。
「僕? いやいや。僕はバイタリアンです。 遅れたもんで夕食には間に合いませんでしたが・・・・・・。 一応自己紹介しとこかな。 若い女性もたくさんいることだし。」
そういって、ホフク前進の格好から立ち上がると、ミッキモーさんは少し改まった調子になった。
「僕はミッキモー。 自然派カメラマンをやってる。 盗撮写真が主だけど、正面撮りをして欲しいって言う人がいれば遠慮なく言ってくれればいいよ。」
冗談のつもりか、一人で笑った。
「やだ、変態じゃん」
女の子達は得体の知れない物と対峙したかのように嫌がる。
「恥ずかしがることはないじゃないか。確かに、見つかれば皆嫌がるけど、自然な風景を撮りたいだけなんだよ。それに、そのうち年を取ったときに、ああ、あのきれいな頃の魅力を誰かに伝えたいって、きっとそう思うようになるよ。」
僕は真理の顔をうかがった。
軽蔑したような表情しか浮かんでいない。
・・・・・・ってか、ぼそっと「早く地獄行けばいいのに」って言ってる。
「ブタ子、撮ってもらえばー?」
亜希ちゃんが啓子ちゃんを肘でつついている。
「えーやだ。自信ないもの」
激しく首を振りながらも、啓子ちゃんはまんざらでもなさそうだ。
OLも盗撮魔もまとめてウゼェな。

ガチョーーーーン!!

「何や? 今の古いギャグみたいな音は…」
香山さんが驚いて叫んだ。
あっと驚く香山タメゴーロー。
「私、ちょっと見てきます」
リーさんはウサギ跳びの準備をすると、あっと言う間に廊下の奥へ消えた。
ミッキモーの作ったうっとうしい雰囲気が冷めたようだ。
やがて、部屋から連れ出したのか、クボータさんと一緒に戻ってきた。
「一階は、まぁ窓5枚くらい割れてるけど、異常はないみたいだ。
 ・・・・・・すみませんがみなさん、ご自分の部屋で何か割れてないかどうか、確かめてきていただけませんか? 冷凍庫状態になってたら電気代節約できますしね」
そりゃ良いや。ぼく達は立ち上がり、冷蔵庫から魚やら肉やらを勝手に引っ張り出して二階へ上がった。
二階へ上がると、ぼくはまず真理の部屋に飛び込んだ。
バッグを開けてのぞいただけで、何も異常がないのは分かった。
が、一応香りが残ってないか確認したところで、後ろから真理にカツオで叩かれ、廊下に追い出された。

2009/08/19

かまうぃたちの夜(9-1)

第9章 鳩のなく夜
鳩時計が鳴る。
みんなが一斉にそちらを見た。
(パッポッ)3・・・・・・。
(パッポッ)4・・・・・・。
(パッポッ)5・・・・・・。
(パッポッ)6・・・・・・。
(パッポッ)7・・・・・・。
(パッポッ)8・・・・・・。
(ポッポポッポポッポッポーッポッポッ)9・・・・・・。
9時だ。
鳩が鳴きやむと、みんな頭の中で何でギロッポン歌ったのか深く考えていた。
窓枠ががたがたと鳴り、分厚いガラスが割れそうに思える。
「あれ、ギロッポンは1カウントじゃないわよね」
嬉しそうに三人組の可奈子ちゃんが言う。
「やだ。縁起でもないこと言わないでよ。超長い1カウントじゃないの、アレに続いて気持ち悪い・・・・・・」
啓子さんは言いかけて、かっぱえびせんを口に放り込んだ。
・・・・・・まだ食うのか。
「アレって、何です?」
ミッキモーさんがのんびりと尋ねる。
ぼくは何とかフォローしようと思い・・・・・・。
「昨日、イアン・ソープが泊まりに来たんですよ」
「ええっ、ほんとですか?」
ミッキモーさんが驚いて目を丸くする。
「あれ? 玄関から入る前に、つまみ出しといたはずだがなぁ・・・・・・」
リーさんが首をひねった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
皆、目が点になった。
「うそっ、うそっ! 冗談ですよ。もう、みなさん、簡単にひっかかるんだから・・・・・・」
リーさんは、大きく手を振っておどけた。
啓子ちゃんが胸を撫で下ろす。
「なぁんだよかった・・・・・・。私、ソープ、5回も川で泳がしちゃったから・・・・・・」
意味がわからんが、とりあえずイアンさんが可哀想だよ・・・・・・。

2009/08/18

かまうぃたちの夜(8-2)

第8章 団らんの時間
(2)
「あの、男の方はどうされます? ちょっとキモい感じの・・・・・」
こっちへ振り向き、聞いて来る。
あの変態のことだろう。
「ああ、そんな奴いたっけ? 一応、ドアの隙間からガソリン流して反応見てくれ」
「えー、あたしやだなぁ」
「嫌ならいいよ。リアクションしてくれそうなタイプでもなさそうだし。」
「よかった」
グリーンさんは三人組の部屋の前で紅茶を流した。
「オーナー!飲みたいそうです。床の分を舐め干したら来るって!」
流し終え、下に向かって叫ぶ。
「もうちょっと従業員らしい、丁寧な言葉遣いができんもんかな・・・・・」
リーさんは苦笑して呟く。
「本当ですよね。最近の若いメス豚は・・・全く・・・知性のかけらもなく、エロいだけだよ・・・」
苛立たしげに同意した。
「若いメス豚・・・・・ね、ふぅん、私も含むのかしら?」
真理がチラリと冷たい視線を向けた。
「うんっそぅっ、ごほごほ・・・・・・」
ぼくは思いっきり咳をしつつ肯定した。
「じゃあ、もう三人分、用意してきますね」
今日子さんが、スキー板を持って台所へと消えた。
「いやあ、ここはえらい曲芸サービスなんですねえ」
ミッキモーさんは床を舐めながら関心した。
…まだアニマライズ・グッドケーキ食ってたのかよ。
「いや、とにかく、人をもてなすのが好きではじめた訳ですから・・・」
リーさんはミッキモーさんを踏みつけながら照れている。
3人組はすぐに降りてきた。
「ナオハムスニダァ」
「ちょっと、さっさと降りてよブタ子」
「まだテレビ見たかったのに・・・」
あっという間に騒々しくなる。
「わぁー加齢臭っぽい香りー」
「服、失礼しまーす。」
「だから、ブタ子。服かじらないでってば」
人が増えて来たので、ぼくたちはイナバ物置の上に腰掛けることにした。
それでも、100人乗っても大丈夫だ。
ぼくが座ったところで、リーさんが紅茶を持って来る。
「クボータくんにも声かけたんですけどね。テレビを分解しているらしくて今はいらないそうです」
「いただきまーす」
声をそろえて、一斉に紅茶を持った今日子さんに飛びかかる。

2009/08/17

最近イラっとした瞬間

おっす、おら山さん。
今日はおらが最近イラっとしたこと言いてぇから、おめぇらも付き合ってくれ。
・台所にGoKiBuRi大量に出現
→おら、たまげちまってよ。 間違えてキンチョールかけちまったんだ。 男なら逃げ隠れせず正面から挑めって、おらは言いたいんだ。

・ガス警報器がキンチョールに反応。 ピーッ ピーッ ピーッ
→おら、たまげちまってよ。 ガスが溜まりやすいからか、システムキッチンの側面下端にあった警報器をシンクの端に置いて布被せちまった。 男なら騒がずじっとしてろって、おらは言いたいんだ。

・休み明けにいなくなってたから安全宣言。 喜んでシャワー浴びてたら、排水溝からGoKiBuRi再登場。
→GoKiBuRiのおっちゃん、地の底から出てすぐこっちに突進してきたんだけど、カメハメシャワーで押し戻されそうになってすぐドアの方に方向転換しやがったんだ。 武道家の風上にもおけねぇから、おらのカメハメシャワーMAXで押し戻してやったよ。 またいつか生まれ変われるように神様にお願いしといたからよ、また会おうな。

かまうぃたちの夜(8-1)

第8章 団らんの時間
「どうもこんばんは!」
足音も高く、さっき上がって行ったばかりのミッキモーさんが降りて来る。
「部屋のカギが解けないですが? 参っちゃうな。ねぇ、ドア蹴破ってやりましたよ」
えらくアホな人らしく、あははと大声で笑いながら真理の隣に腰掛けた。
「あ、ミッキモーさん。もう降りていらしたんですか。アロンアルファで解けないようにしておいたのに・・・・・」
リーさんがコーヒーをジョッキで持って来る。
何、このおねしょサービス?
その後から、奥さんの今日子さんとバイトのグリーンさんがビーカーに並々と入れた紅茶をアルコールランプの上に乗せてやって来た。
何の実験が始まるのだろう?
「スプリンガ―さんはビール無理派でしたよね? 紅茶は、いかかですか? あと、アニマライズ・グッドケーキというのもありますけど・・・・・おいしいですよ」
リーさんがたずねると、スプリンガーさんはちょっと考えてうなずいた。
「ええ、じゃあいただきます。」
「じゃあ、召し上がれ。」
リーさんはそう言うと、ケーキを床にひっくり返し、上から紅茶をかけた。アルバイトのグリーンさんが首輪片手に笑ってる。
そこに、なぜかミッキモーさんが飛びついた。
「ああ、生き返るみたいだ・・・・・!」
ミッキモーさんは有難そうにケーキをはぐはぐと食べる。
ひげを生やした人というのは、人間性がよく分からなくなってしまうものだが、ミッキモーさんもそうだった。
これの感じや喋り方からして、中年と言うにはまだ間があるだろうが、たぶん30代半ばだろう。
首輪をすると案外ぼくたちと変わらなくして20そこそこ、なんてこともあるかもしれない。
「泊まり客は、これで全部ですか?」
一息ついたミッキモーさんがぼく達を見回して聞く。
「いえ、私の変身は、まだ4つありますよ」
リーさんが答えた。
「そうだ。グリーンさん。彼女達もお茶が欲しいかもしれない。ちょっとドアの隙間から流してあげなさい」
「はーい」
グリーンさんはぱたぱたとスパイクの音をさせて、フロントへ向かった。

2009/08/16

かまうぃたちの夜(7-1)

第7章 遅れてきた客
(2)
「ほな、誰が取りに行くか、インジャンで決めへんか? …あ、こっちやとジャンケンっやったな。」
香山さんがそう言いだした。
「あ、ビール派が三人いることですし、グーとパーで決めません? それなら確実に一人選ばれるでしょうし」
真理が提案する。
なるほど、それならグーかパーが一人だけになるから、一回で決められるな。
「よし、じゃあ、やりましょうか。」
「ほな、いくで。 グーとパッ!!」
ぼくは直前まで真理が手を握ってるのが見えたんで、グーを出した。
「ありゃ、兄ちゃん、負けよったなぁ・・・・・」
香山さんはチョキを出してた。
「残念ね、透」
真理もチョキを出してた。
何なの、こいつら?
「頑張って取りに行ってな!」
香山さんが言った。
真理もヨダレをボタボタ垂らして、早くビールちょうだいという目で見てくる。
仕方なく、玄関を出て取りに行ったのは良いが、外の極寒より、戦利品を持って帰ったぼくに向かって、
「寒そうだから近寄らないで、気持ち悪い」
という真理の言葉の方が絶望的だった。
リーさんの奥さん・・・・・スプリンガーさんは、飲めないのか飲みたくないのか、手を出さない。
「ぷはーっ、こういう寒い時に、暖かい部屋で冷たいビールを飲むんが最高の贅沢やな。」
香山さんはニコニコしている。
「あ? 違うだろ豚野郎」
ぼくは逆らった。
「最高の贅沢なんていったら、水着美女に囲まれて食べる焼きそばでしょうが、何言ってるの馬鹿のくせに。」
「いや、そら違うな。女房と飲むビールが最高やわ」
「違いますね。真理を椅子代わりにして飲む方が・・・」
「もう!いい加減にしてよ!なんで透ごときの椅子にならきゃいけないわけ?黙って飲みなさいよ」
真理に怒られた。
「・・・・・奴隷のくせに!」
ポツリと言い返す。

2009/08/15

かまうぃたちの各章

第1章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/blog-post.html

第2章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/2.html

第3章(前編)
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/httpyamasan-net.html

第3章(後編)
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第4章(前編)
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第4章(後編)
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第5章
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第6章(前編)
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第6章(後編)
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第7章(前編)
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かまうぃたちの夜(7-1)

本当に屋根だったのだろうか?
疑いながら上を見つめていると、吹雪の先に星が見えるような気がした。
慌ててリーさんが屋根を戻していると、自転車の近づいてくる音がした。
ヘッドライトだ。
急速に近づいてきて、チェーン音も聞き取れるようになった。
このあたりには他に家もないし、どうやら遅れてきた客のようだ。
案の定、玄関外側のドアと衝突してドアごと木端微塵になり、慌ててリーさんが修理しだした。
やがてリーさんを避けて玄関から髭面の人が入り、二重になったドアの内側のカギを閉めた。リーさんが締め出された。
「すいません!ミッキモーですが!どなたかいらっしゃいますか!」
ガマ声がこちらまで響く。
「ミッキモーさん、ですね? 開けてくれませんか。」
リーさんが、内側のドアを叩きながら言う。
大柄な男の客は仕方なくロックを外した。
リーさんは、倒れこむように中に入ると、慌ててコーヒーを持ってきてほしいと言った。
「いやー、何でそんなとこに居たんですか? 馬鹿なんですか? まるで役に立たないんですか・・・?」
ミッキモーと呼ばれた男の人は、フロントで記帳しながら、喋り続けた。
ミッキーマウスみたいな名前に似合わぬ、ひげ面の、いかにも山男と言った感じの人だった。
「夕食はおわりましたんですが、おひねり程度のものならご用意できます。お作りしましょうか?」
リーさんが尋ねる。
「あ゛ぁ゛!?・・・いえ、途中でエンジンとかぱくつきましたから、お腹は空いてません。おかげで積み荷のチャリで来ましたから、何かあったかい飲み物でもいただけると、うれしいんですが」
「コーヒーとか紅茶みたいなものがよろしいですか?スープもありますが?」
「それじゃあ、紅茶を下さい」
「じゃあ、駐車場の横の自販機で買ってきて下さい。飲むのはここでも部屋でも構いませんので・・・」
「あ、やっぱり結構です」
ミッキモーさんはちらりとこちらを見てうなずく。
何の合図なんだ?
「そうですか。じゃあ、これが鍵です。知恵の輪を解かないと使えなくなってますが、気にせず上がってください。」
リーさんに鍵を渡されるとミッキモーさんは自転車のサドルだけ担いで、二階へと昇って行った。
鳩時計が一回だけ鳴る。
8時半だ。
「あ、ゴメン。ビールは外で冷やしてるから、勝手に飲んでくれていいよ。」
ぼくらに声をかけると、リーさんはまた食堂に戻っていった。

2009/08/14

かまうぃたちの夜(6-2)

第6章 就職先は生涯賃金で決める
(2)
「女房のスプリンガーや。……こっちは将来奴隷の真理ちゃんとその御主人の透やそうや」
更に昇格していた。
真理は文句を言う気もなくしたようだった。
「うっす」
「ナンモハムスニダー」
スプリンガーさんににっこり笑いながら、香山さんの頭に腰掛ける。
「おいしいお皿でしたわ」
「お世辞じゃないでしょうね」
そう言いながらも、リーさんはまんざらでもなさそうな表情だ。
「お世辞に決まってるじゃないですか、馬鹿なの?」
「奥さんにそう言って頂けると、自信がつきます。」
ひどく重苦しい空気が流れた。
「なんか頭重いんやけど、ビールかなんか、もらえるかな!」
その空気をいらだたしげに破ったのは、香山さんだった。
「ええ、じゃあ君たちも飲むか?」
リーさんが、その場をとりつくろうように聞いて来る。
ぼくは真理と顔を見合わせようとしたが、振り向いてくれなかった。
「じゃあ、ちょっとだけ」
彼女が右腕と左腕を大きく広げて示した。
…こいつ、何てマリノサウルス?
「この乾いた心を潤せるくらいあれば十分です」
キマったと思った。
「何ナルシストみたいなこといってるのよ、その顔面で」
真理に怒られた。
「……たまには言わせてよ」
泣きながら訴えた。
突然、窓の外でどさっと何か雪のようなものの落ちる音がする。
「わっ!・・・やば、パンツ換えなきゃ」
ぼくのズボンが湿ってるのを見て、真理はくすくすと笑った。
「屋根が落ちただけよ」
「何だ、屋根か。」
見晴らしが良くなる代わりに、寒気がした。

2009/08/13

もうすぐUターンラッシュ

もうUターンラッシュなわけですけど、そういや、こないだの親子Gメンも結局、一番小さいの以外、リセッシュで弱らせつつも取り逃がしたわけですよ。

夏休みあけに人間の寮なのか触覚羽根突きGメンの家なのか分からないところへ帰るわけです。 もしかすると、地震の時にも共同の台所に居とけば良いものを、避難所として僕の部屋にモッサァッと避難してたかも知れないわけですよ。
大事にしてる技術経営学論の本とか、人工知能とか、犯罪心理学とか、我がバイブル達にワッサァッって乗っかって、ページの隙間に入ったりとかしちゃったりしてるかも知れないわけですよ。
あと、置いてきた電動歯ブラシにワッサァッと登ったり、冷蔵庫のチーズとか「ワイン持ってこい人間」と言わんばかりにワッサァッって食っちゃってたり、眠たくなって枕のあたりでワッサァッって集まって寝たりなんかしちゃってるかも知れないんですよ。

ヤヴァイ、幻覚であって欲しい。寮で見た全ての触覚羽根突きGメンが幻であって欲しい。 現実には居なかったことにして欲しい。
リセッシュかけてゴメンなさい(゚Д゜;)
リセッシュかけてゴメンなさい(゚д゜;)
リセッシュかけてゴメンなさい(゚_゜;)

かまうぃたちの夜(6)

第6章 就職先は生涯賃金で決める
「香山さんは前の仕事でお世話になったんだ、マダガスカルで社長をされている。」
「しかし、何やな、脱サラした人は何人も見てきたけど、普通やな。ところで、あんたら学生さんか?」
香山さんはテーブルに話しかけた。
「は、はい」
あわてて、ぼくが答えた。
「どや、うち来んか?」
「まだ先の話なので…」
「どや、うち来んか?」
「まだ先の話なので…」
「どや、うち来んか?」
「チビデブ調子乗るなよ。 いかないって何回…」
「はい、これ、透の履歴書です。」
真理がおもむろにぼくの履歴書をテーブルの上に置いた。
このアマ、いつの間に作りやがった!?
しかも、小中高すべて当たってる、趣味まで。
「兄ちゃん、特技がマウスのトリプルクリックできますって、いらんわぁ(笑)」
この香山豚、自分から誘っておいて、うぜぇ。
「ごめんな、うちの会社実力主義やねん。トリプルクリック使える企業探してな。」
いつの間にかトリプルクリックが伝家の宝刀扱いにされてしまった、うぜぇ。
「ご迷惑ですよ、あなた。」
静かな女の人の声が聞こえた。
振り向くと、香山さんの奥さんらしい、あのきれいな女の人が手すりの上に立っている。
「困ってらっしゃるじゃありませんか」
遠目にも凄い気がしたが、近くでみると足の小指一本で立ってるが分かった。
35,6のくせに、できる。

2009/08/12

かまうぃたちの夜(5)

第5章 野球とサッカーとカバディ
そんな感じで味噌自慢話を聞いているところに、二階から中年夫婦の男性の方が降りて来た。
「おぉ、兄ちゃん、テレビ観てもえぇかな?」
気さくに聞いてくる。
「あ、どうぞどうぞ」
僕が答えると、…たしか、香山とかいう中年の人がおもむろにリモコンをイジり始める。他愛もないニュース番組を見て、チャンネルを次々変える。
「あかん、どこもやってへん…兄ちゃん、今日の阪神どうなったかわからん?」
「え? 今、ニュースで横浜と延長にって…」
「あ、それは1軍やがな。2軍のファンやねん。」
知らんがな。ネットで調べろや。…と言ってしまいたかったが、我慢した。
「香山さん、うちはサッカーしか見せないって言ったでしょう」
リーさんが声をかける。
何このペンション?
「あぁ、リーさん…いや、別にそんなつもりやないんや。」
「奥さんがどうなってもいいんですか。結婚してからラブラブで離れたこともない。そうおっしゃったのは香山さんでしょう…ヒヒヒ…」
そこまで喋って、リーさんは僕たちが見ていることに気付いてヨダレを拭いた。
「あぁ、一応紹介しとこうか。この子は私の姪で、将来メイドになる真理です。こっちはその御主人の透君」
真理の…主人?
「やだ叔父さん、埋めるわよ」
ぼくのメイド(仮)が言い返す。
「そうかー、よかったなぁ。」
そう言ってくれた香山さんをヤラしい目つきで眺め回す。
「な、何やねんな。この体は家内のもんやで!」
じゅる…

2009/08/11

かまうぃたちの夜(序盤感想)

現在、4章が終わり、第5章目を今日~明日投稿する予定でして、個人的に力作の中盤戦がようやく始まるのか、という感じです。
そもそも、かまうぃたちの夜は、どこかで聞いた冬山で起きる事件+ちょっと寒いギャグをもって夏に涼しさを、ということで始まった企画です。

登場人物&人間関係紹介の序盤、寒いギャグの中盤、恐怖が迫り来る終盤。
どうぞ、今年の夏の一品をお楽しみ下さい。

2009/08/10

かまうぃたちの夜(4-2)

第4章 メッセージと姪ド
(2)
「どうする?」
三人は顔を見合わせ、話し合い始めた。
「あたしやっぱり気持ち悪い」
亜希ちゃんだ。
「こっちのおじさんのほうが気持ち悪くね?」
可奈子ちゃんが応える。
「あははぁー、モーキーだよモーキー。おじさんモーキーだぁ」
啓子ちゃんが、現代語を言い出した。
「テレビなんかいいでしょ!なにしに来てるのよあんたは。あたし達はテレビ見に来たのよ、テレビ見に!」
可奈子ちゃんが怒り始める。
「分かってるけど・・・でも今日は見逃せないの。『ヤマサン』の最終回なんだもん」
ぼくは50回くらいしか見たことないが、確か『山の桟橋』という旅番組風ドラマだ。
しばらくもめていたが、結局、つまらないいたずらだし、部屋を替えてもあまり意味がなさそうだということで、彼女達は引き下がって部屋に戻って行った。
「でも、誰がこんないたずらするかしら。子供は泊まってないし・・・」
そう言うと真理は、いたずらっぽい目をぼくに向けた。
「子供作らない、透?」
とんでもないことを言い出す。リーさんがおどろいてぼくを見る。
「冗談じゃないよ。何でぼくが君の子を産むんだ・・・」
慌ててトンチンカンな抗議した。
「そうよね。いくら透でもそんなことしないわよね」
何かひっかかる言い方だが、まあいいとしよう。
その時、フロントの電話が鳴り始めた。
驚いて、リーさんが泣き始めた。
「ったく、リーさんは…はい、チョルチェンです」
「みゃあみゃあ、みゃ!!!」
代わりに電話を取ったのはいいが、相手が名古屋の人という事以外よくわからない。
「予約していたものですが、今ようやく駅のあたりまで来ましたって言ってるわ」
なんだ、真理も名古屋育ちだったのか。
だからカバンにマイ味噌5キロ詰めて来たのか。

2009/08/09

某邦画を見ていて思った事

さて、本日は映画評論家のような一面を持つ、私こと山さんが、最近見た映画で「?」と感じたことを書こうかと思います。

某・女座頭市的なのが出てくる邦画:
昔起きた事故がトラウマとなって、刀を抜けないという男が出てくるわけなんですが(主役か?)、野武士っぽい雑魚キャラ達と他の仲間っぽい雑魚キャラ達の小競り合いの際、刀を必死でフンフン言いながら抜く仕草して、結局鞘から抜けなくて諦めてやがるシーンがあるわけですよ。
というか、2時間そこらの映画の7割以上フンフンやってるわけですよ。
監督らは「遂にはトラウマを乗り越える男」みたいな表現をしたくて、そしてそれを表現しきれて喜んでるかも知れませんが、

やられて永眠してる野武士どもの刀を使えばいいんじゃね?

自分のが鞘から抜けなくても、刃剥き出しの刀拾えば解決するのに、何やってんだかね。

2009/08/08

泣きたい

台所に、ヤツがいた。

親子3匹だった。

泣きたい。

キンチョールとか使うとガス警報機なるしね。

2009/08/07

かまうぃたちの夜(4)

第1章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/blog-post.html

第2章
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第3章(前編)
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第3章(後編)
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第4章 メッセージと姪ド
フロントに着くと、女の子三人組とリーさんがなにやらもめていた。
「ちょ・・、ちょっと。落ち着いて話して下さい。一体どうされたんですか?」
「だから! 今部屋に戻ったら、床にこんな・・・こんな物が!」
女の子達が震えながら、リーさんに小さな紙切れを差し出した。
気になったぼくは、紙を奪い取る。小さな紙切れには、赤い字でこう書き殴ってあった。

『こんや、12じ、だれかとあそぶ』

「コンニャク、12個、糸コンに・・・する!?」
ぼくが読み上げると、みんなヨダレを垂らしながらゴクリと唾を呑み込んだ。
しばらくの沈黙の後、ようやくリーさんが口を開いた。
「誰かのいたずらでしょう」
「・・・悪趣味ね」
真理が眉をひそめる。
「こいつ漢字も書けないのか!?」
ぼくも発言したが、誰も聞いてくれなかった。
泣いた。
確かに、悪趣味ないたずらだ。それが本当にいたずらなんだとしたら・・・。
「でも、ヘンリー王子を助けに行ったら、絶対ゲマが出てくるんですよね?気持ち悪くて出入り口いけないわ」
そう言ったのはやせて髪の長い可奈子ちゃんだ。
それ何てドラクエ5?
「床に落ちていたんなら、ドアの下の隙間から入り込んだんじゃないですか?鍵はかけていらしたんでしょう?」
リーさんがそう言うと、女の子達はぽかんとした表情を浮かべた。
「そっかー、50cmの隙間から入ったんだぁ」
どうやら、そんなことにも気付きもしなかったようだ。後で夜這いしよう。
「・・・でもやっぱり気持ち悪い」
メガネの亜希ちゃんだ。
「何ならお部屋を替えましょうか?幸い私のベッドは4人寝れますから」
「その部屋にもテレビ、ついてます?」
ちょっとぽっちゃりした可愛らしいショートカットの啓子ちゃんだ。
「何でも用意しますよ、ヒヒヒ、すいません。ヨダレがこぼれちゃいました」
と、申し訳なさそうに手で口を拭く。
「他の空き部屋は?」
「あいにくふさがってます。ですから、私のお部屋で我慢していただくしか・・・」

2009/08/06

かまうぃたちの夜(3-2)

第3章 夕食かぁ…
(2)
そんな会話をしているうちに食事を終えた人々が、三々五々、食堂を出て行く。ぼくのデジタル時計は19:55を示している。
「さてと。私たちもそろそろラーメン屋行きましょっか」
真理が信じられないことを言って立ち上がった。
「うっせぇな、伏せてろっつただろ」
ぼくもそう言い返してホフク前進の準備をした。
「スイスの天気予報聞いてる限りじゃ、ラーメンどころじゃなさそうよ」
裸エプロン姿のグリーンさんが、横から口を挟む。
「当分、ここから出ない方が良いみたい」
うっせぇアルバイター・グリーン、JKかババアかわかんねぇんだよ。
暇なときは日向ぼっこしているのか、顔も髪も髭もすっかり雪焼けして、まるで男のようだ。 …髭? まぁいいや。
「そんなに激しいんですか?」
僕は思わず聞き返した。
「予報を翻訳サイトで訳しながら観てたんだけど、『僕、です。悲しい降る』って言ってたからね」
今度は、もう一人のアルバイト、クボータがやって来た。
クボータは自称小学18年生、サーフィン好きが高じて、単位そっちのけでバイトをしているのだという。身長は屋根を越えていて、戦闘機はもちろん、UFOもたまに打ち落とす体つきをしている。
こういう人の前に立つと顔を見上げるだけで首が痛くなる。鳥の唐揚げヤるから、下に来てほしい。ぼくは真理の反応をうかがった。
真理の方が唐揚げに興味を示している。
…うぜぇ。
「向こうの空まで雲があるから、まぁ2・3日は延びるかも知れないね。」
「もちろん、宿泊代安くするために部屋を一緒に…」
「透、3日は喋らないでって言ったでしょ。」
当然、泣いた。
ホフク前進のまま廊下に出た。

2009/08/05

かまうぃたちの夜(3)

第1章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/blog-post.html
第2章
http://yamasan-net.blogspot.com/2009/08/2.html

第3章 夕食かぁ…
(1)
まだロウソクに火をつけて炊き出しを始めたばかりだったが、真理と食堂へと向かった。
食堂のテーブルにはすでに、ナイフやフォークが突き刺さっていた。
女の子三人組やさっき着いた夫婦も、もう先に椅子に座っていた。
真理がさっさと座ったテーブルの下に、ぼくもさっと入る。
蹴られたので仕方なく椅子に座る。
テーブルの真ん中にはクリスマスツリーを模したキャンドルが立っている。その揺らめく小さな炎が、窓の外を見つめる真理の横顔を、ほの赤く照らしている。
「スプレー缶があれば火炎放射器が…」
「透、3日は喋らないで」
………泣いた。
「どうしたの?そんなに泣いたりしちゃって。そんなに感動した?」
………やれやれ。
リーさんの奥さん、今日子さんと、バイトのグリーンさんの二人が、料理を各テーブルに運ぶ。
泊り客は、ぼく達、三人娘、そして遅れてきた夫婦・・・。だけかと思っていたのだが、もう一人、こんなペンションに似つかなわしくない客がいた。
食堂の隅、壁に半分溶け込んでる、ブリーフの男。食事中だというのにシャツもズボンも着ず、あまつさえ蝶ネクタイまでしている。スキー客にはもちろん、仕事で来ている営業マンにすら見えない。
……変態。それがぼくの第一印象だった。
が、よく考えたら、変態が一人でペンションに来るとも思えない。おとなしくスープをすすってるいるその様子を見ていると、みかけと違ってバーローな人なのかもしれないとも思えてくる。
いずれにしてもぼく達の前に料理が運ばれてくると、そんなことはすっかりどうでもよくなってしまった。
「おいしい!」
真理はテーブルに噛り付くと、声をもらした。セルロースとリグニンの見事にマッチングした、スギノキーネとかいうドワーフ料理だ。特に4本の足はほんとうにおいしくて体の奥から暖まるようだった。
その後に噛り付いた壁や床料理も、どれも味、量、共に満足のいくものばかりで、ペンションとしてではなく、お菓子の家としてやって行けそうだと、改めて思った。
「これって叔父さんが作ってるの?」
食後のコーヒーの時、ぼくは真理にたずねた。
「ううん。叔父さんは依頼してるだけよ、料理を作ってるのは大工さんの方。小さい頃から職人になりたかったんですって。」
「ふうん」
「それにね実は叔父さん、家作りがとても下手なのよ・・・」
「・・・・でも大変なんだろうな」
ぼくは感心した。
「そうでしょうね。でもたまたま知り合いに建築士と大工がいてね。コネだけは初めからあったから、そういう面ではそんなに苦労はなかったみたいよ」

2009/08/04

かまうぃたちの夜(2)

第2章 武装ペンション「チョルチェン」
真理とは今年の四月に大学で知り合った。
果敢かつ執ようなストーカーで何度か裁判をする関係にまでこぎつけることができたのは、この春のことだ。
しかし、押しても引いても手応えがなく、いいかげんぼくの一人ずもうのような感じさえしていた。
だから一緒に冬山滑走遊戯に行かないかと彼女の方から誘わせたときには、正直言っておどろいた。
彼女の叔父さんのリー・リョンファンさんという人が、信州でペンションを経営しているのだという。
しかし、少し韓国から離れていて不便なこともありシーズン中もあまり客がこないらしい。
それで中国元で泊めてもらえる、ということで、真理に誘われたのだ。
ぼくはもちろん喜んでOKし、5分前、つまり12月21日ここ信州へとやって来たのだった。
ペンションに帰り着く頃には、もう日はとっぷりと暮れ、よくわからないものが降り始めていた。
リー夫妻の経営する「チョルチェン」は、外見はテント風で、内装はアスベストを基本にしたおしゃれなペンションだった。そういや、さっきから胸が痛い。
料理のメニューも無国籍というかカオスというか、とにかく多彩で、その上、味もよくわからないものばかり。
閑古鳥が鳴くどころか雑誌などにも紹介されて人気も出てきているらしい。
暇だから台湾ドルで…。
というのは、リーさんがぼく達に気をつかわせまいとして言ったのだと今到着してから気づいた。
ぼくと真理の部屋は残念なことに、というか当然、というべきか、別々にとってある。
でも、ごく自然に後をついて行った。
「ついて来ないで変態。」
真理に一蹴された。その言葉に少しときめいた。
仕方なく部屋に戻り、日課の聖地に向かってのお祈りをやり始めた。
「邪神モータス様、哀れな子羊に祝福を…」
自分で言いつつ、何か可笑しな気がした。
30分お祈りした頃、ノックの音が響いた。
「もう夕食よ」

2009/08/03

衝動買いの恐怖

Jャスコに時計を買いに行ったんスよ。
ソーラー電波のあれです。
15000円くらいのが、5000円くらいだったんスよ。

へへへ
普通、時計持ってなきゃ買いに行くでしょう?

それがですよ、アータ、わかりますかい?
EQW-M1000DB-1AJFって型番? のEDIFICEって時計に惚れちまったんですぜ。

予算5000円が4万越えですぜ?

8倍スよ? 8倍

ひひひ
世の中、怖いスねぇ

2009/08/01

かまうぃたちの夜

第1章 ゲレンデ真っ赤っか
ようやく覚えた柱乗り(タオパイパイ直伝)でなんとかレストハウスまでたどり着き、ぼくは一息ついていた。真理はそんなぼくの目の前でけたたましく叫びながら鮮やかに僕の脇腹にスキー板を突っ込んだ。
ゴーグルが粉雪まみれになって明日が見えない。
「あは、透ったら血だるまみたい」
真理の笑い声が聞こえる。
ぼくはゴーグルをはずしながら体についた雪を払い落とした。
「いいからスキー板抜けよメス豚。ラーメン食えねぇだろ。太るから飯食うなってか?」
「そういう意味じゃないってば。…でも、ま、恨みがあるのは確かかもね」
真理もゴーグルをはずし、笑顔を見せた。
数時間ぶりに見るその笑顔は、壁の向こうから顔をのぞかせている変態のようだ。
ぼくはあらためて真理を見た。
半袖のスキーウェアに長い黒髪がよく映えている。
どんな難所も軽々と滑り落ちる彼女は、ゲレンデでも注目の的だった。
誰しもがそのゴーグルの下に、美しい顔を期待したはずだと思う。
男とはそういうものだ。
真理なら、とぼくは思った。
真理なら、誰の期待も裏切らないに違いない。
さっきから雪国育ちの真理にさんざんスキー板を体中に突き刺されてうんざりしていたぼくだったが、今だけは誇らしい気持ちになった。
青いスキーウェアが紫になって何が悪い。
ぼくは彼女の素顔だけでなく、分厚いスキーウェアの下に隠されたスタイルがどんなにエロいかということも知っている。
「もう一回だけ滑ろ?」
「ええっ?まだ突き刺すの?」
ぼくはグッタリして聞き返した。
「そんなこと言わないでさ、ね?あと一回だけ。一回だけいいでしょ?」
真理はとっておきの笑みをぼくに向け手を合わせた。
ぼくはこの手合わせに弱い。
「もう帰ろうよ。それにほら、服だってないし」
ぼくはそういって、スキーウェアを脱いだ。
嘘じゃなかった。
さっきまで着ていたシャツやスーツやネクタイは、滑ってる最中に脱ぎ散らかしていた。
周りの視線が、黒く重くのしかかるように感じられる。
「ほんと。今夜は吹雪くかもしれないわね」
真理は眉をひそめた。
「…じゃあ、パンツだけ回収して戻ろっか」
ぼく達は真理の叔父さんの小林さんに借りたF22に乗り込んだ。