2010/08/14

かまうぃたちの夜(復刻版)

第8章 平穏なひととき
「どうもこんばんは!」
足音も高く、さっき上がって行ったばかりのミッキモーさんが降りて来る。
「部屋が分からないんで雪の上に荷物置きましたが? 参っちゃうな。 ねぇ、さーむい寒いよ」
えらく馬鹿な人らしく、あははと大声で笑いながら真理の隣に腰掛けた。
「あ、ミッキモーさん。 もう降りていらしたんですか。 邪魔だから使えない鍵を渡しておいたのに・・・・・」
リーさんがコーヒーを灰皿に入れて持って来る。
みんなの表情がみるみるこわばった。

その後から、奥さんの今日子さんとバイトのグリーンさんがガーゼに紅茶を染み込ませたものを持ってやって来た。
ぼくはうつむいた。
どこからか「帰りたい」という声が聞こえる。

「スプリンガ―さんはビールだめでしたよね? 紅茶は、いかかですか?
あと、ウォール・グッドケーキというのもありますけど・・・・・おいしいですよ」
リーさんがたずねると、スプリンガーさんはちょっと考えてうなずいた。
「ええ、じゃあいただきます。」
「じゃあ、召し上がれ。」
リーさんはそう言うと、ケーキを壁に投げつけ、ケーキに向かって紅茶をまき散らした。
今日子さんがデジカメ片手にニタニタ笑っている。

そこに、なぜかミッキモーさんが飛びついた。
「ああ、生き返るみたいだ・・・・・!」
ミッキモーさんは有難そうにケーキをはぐはぐと食べる。

ひげを生やした人というのは、人間性がよく分からなくなってしまうものだが、ミッキモーさんもそうだった。
これの感じや喋り方からして、中年と言うにはまだ間があるだろうが、たぶん30代半ばだろう。
首輪をすると案外ぼくたちと変わらなくして20そこそこ、なんてこともあるかもしれない。

「泊まり客は、これで全部ですか?」
一息ついたミッキモーさんがぼく達を見回して聞く。
「いえ、私のボウリングは108レーンまでありますよ」
リーさんが答えた。
「そうだ。グリーンさん。彼女達もお茶が欲しいかもしれない。 ちょっとドアの隙間からバルサン流してあげなさい」
「はーい」
グリーンさんはぱたぱたとスパイクの音をさせて、フロントへ向かった。

「あの、男の方はどうされます? ちょっとキモい感じの・・・・・」
こっちへ振り向き、聞いて来る。
あの変態のことだろう。
「ああ、そんな奴いたっけ? 一応、ドアの隙間からバルサン流して反応見てくれ」
「えー、あたしやだなぁ」
「嫌ならいいよ。 耐性ありそうなタイプでもなさそうだし。」
「よかった」

グリーンさんは三人組の部屋の前で紅茶を流した。
「オーナー!煙たいそうです。 ドア押さえたら咳こんでます!」
流し終え、下に向かって叫ぶ。
「もうちょっと業務用らしい、強力なバルサンはないもんかな・・・・・」
リーさんは苦笑して呟く。

「本当ですよね。 最近のメスゴキは・・・全く・・・洗剤かけないといけない・・・」
苛立たしげに同意した。
「メスゴキ・・・・・ね、ふぅん、私も含むのかしら?」
真理がチラリと冷たい視線を向けた。
「うんっそぅっ、ごほごほ・・・・・・」
ぼくは思いっきり咳をしつつ肯定した。

「じゃあ、もう三人分、用意してきますね」
今日子さんが、ミッキモーさんのみぞおちに一撃キメながら台所へと消えた。
「ぐっふぇ、ここはえらい弱いんすよねえ」
ミッキモーさんは床を這いずりまわりながら関心した。
「いや、とにかく、人をもてなすのが好きではじめた訳ですから・・・」
リーさんはミッキモーさんを踏みつけながら照れている。

3人組はすぐに降りてきた。
「どーもーでーすー」
「ちょっと、さっさと降りてよブタ子」
「まだバルサン部屋居たかったのに・・・」
あっという間に騒々しくなる。

「わぁーいい香りー」
「服、失礼しまーす。」
「だから、ブタ子。服かじらないでってば」
人が増えて来たので、ぼくたちは香山さんを窓から捨てた。
それでも、いっぱいだった。

ぼくが座ったところで、リーさんが紅茶を持って来る。
「クボータくんにも声かけたんですけどね。 これから冬眠に入るからいらないそうです」
「いただきまーす」
声をそろえて、ガーゼに染み込ませた紅茶をチューチュー吸う。

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