2010/08/13

かまうぃたちの夜(復刻版)

第4章 汚れたメッセージ
フロントに着くと、女の子三人組とリーさんがホワイトボードの前でなにやらもめていた。
「ちょ・・、ちょっと。落ち着いて話して下さい。一体どうされたんですか?」
「だから! 今部屋に戻ったら、ブタ子が・・・ブタ子がパーーン!」
女の子達が震えながら、リーさんにホワイトボードを見せた。
気になったぼくは、ホワイトボードを覗く。
ホワイトボードには、赤い字でこう書き殴ってあった。

『まくすうぇるの、でんじほうていしきが、わからん』

「マクスウェルの方程式が解らない!?」
ぼくが読み上げると、みんな“うわぁひでぇ”みたいな顔で唾を呑み込んだ。
しばらくの沈黙の後、ようやくリーさんが口を開いた。
「誰かのいたずらでしょう」
「・・・悪い頭ね」
真理が眉をひそめる。

「こいつも解らなかったのか!?」
ぼくも発言したが、誰も聞いてくれなかった。
泣いた。
確かに、基礎だから解るはずだ。
それが本当に大学生なんだとしたら・・・。

「でも、ビアンカのレベルを上げても、再会したらLv10ちょっとに退化しているのよね? やる気失せてレベル上げの旅もできないわ」
そう言ったのはやせて髪の長い可奈子ちゃんだ。
それ何てドラクエ5?

「床に落ちていたんなら、ドアの下の隙間から入り込んだんじゃないですか?
鍵はかけていらしたんでしょう?」
リーさんがそう言うと、女の子達はぽかんとした表情を浮かべた。
「そっかー、ホワイトボードお隙間から入れたんだぁ」
どうやら、そんなことにも気付きもしなかったようだ。
アホだな。

「・・・おえっぷ、脇腹が気持ち悪い」
メガネの亜希ちゃんだ。
「何ならお部屋を替えましょうか? 幸い外の犬小屋は空いてますから」
「その部屋にも暖房、ついてます?」
ちょっとぽっちゃりした可愛らしいショートカットの啓子ちゃんだ。

「ウォッカを樽ごと雪の下に埋めてますよ。 勝手に飲んでください」
と、申し訳なさそうに親指を下にする。
「他の空き部屋は?」
「ありますけど、あなた方ごときに使わせたくありません。 ですから、犬小屋か車で我慢していただくしか・・・」
「どうする?」
三人は顔を見合わせ、話し合い始めた。

「あたしカシスオレンジしか飲みたくない」
亜希ちゃんだ。
「ウォッカにオレンジ混ぜたら良くない?」
可奈子ちゃんが応える。
「きょうのカールおいしーーー。 カールおいしーーー」
啓子ちゃんが、ブツブツ言い出した。
「カールなんかいいでしょ! なにしに来てるのよあんたは。
あたしはソフトクリームが食べたいの、キンキンに冷えたの!」
可奈子ちゃんが怒り始める。

「分かってるけど・・・でも今日はカールのハバネロ味が良いの。 冬限定なんだもん」
ぼくも半袋食べて死ぬかと思ったが、あえて警告はしないことにした。
しばらくもめていたが、結局、ホワイトボードの文字は指でこすったら消えたし、
つまらないいたずらだし、この話題で文字数稼ぐの面倒だということで、彼女達は引き下がって部屋に戻って行った。

「でも、誰がこんないたずらするかしら。理系大学生は泊まってないし・・・」
そう言うと真理は、いたずらっぽい目をぼくに向けた。
「理工学部転籍した、透?」
とんでもないことを言い出す。リーさんがおどろいてぼくを見る。
「冗談じゃないよ。 高専に勝てるわけないじゃないか・・・」
慌ててトンチンカンな抗議した。

「そうよね。 透、バカだから勝てないわよね」
何かひっかかる言い方だが、まあいいとしよう。
その時、フロントの電話が鳴り始めた。
驚いて、リーさんが泣き始めた。

「ったく、リーさんは…はい、チョルチェンです」
「いーよーはせぶらせよー!!!」
代わりに電話を取ったのはいいが、相手が韓国人という事以外よくわからない。
「ムーバー国ムシュタリヵ地方の言語ね。今ようやく駅のあたりまで来ましたって言ってるわ」
なんだ、真理は帰国子女か。
だからカバンによくわからないペーストを詰めていたのか。

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