2010/08/14

かまうぃたちの夜(復刻版)

第9章 鳩のなく夜
鳩時計が鳴る。
みんなが一斉にそちらを見た。
(パッポッ)3・・・・・・。
(パッポッ)4・・・・・・。
(パッポッ)5・・・・・・。
(パッポッ)6・・・・・・。
(パッポッ)7・・・・・・。
(パッポッ)8・・・・・・。
(ポッ…ビチャビチャ)9・・・・・・。

9時だ。
鳩が鳴きやむと、みんな体についた鳩時計の肉片を払う。
窓枠ががたがたと鳴り、雪まみれの香山さんが中に入れてと言っている。
「やだ、キモい豚が外から覗いてるわ」
嬉しそうに三人組の可奈子ちゃんが言う。

「やだ。 縁起でもないこと言わないでよ。 アレに続いて気持ち悪い・・・・・・」
啓子さんは言いかけて、かっぱえびせんを口に放り込んだ。
・・・・・・まだ食うのか。
「アレって、何です?」
ミッキモーさんがのんびりと尋ねる。

ぼくは何とかフォローしようと思い・・・・・・。
「さっきまで香山さんって方が泊まってたんですよ」
「ええっ、ほんとですか?」
ミッキモーさんが驚いて目を丸くする。

「あれ? 証拠はすべて抹消したはずだがなぁ・・・・・・」
リーさんが首をひねった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
皆、目が点になった。

「うそっ、うそっ! 冗談ですよ。もう、みなさん、簡単にひっかかるんだから・・・・・・」
リーさんは、大きく手を振っておどけた。
啓子ちゃんが胸を撫で下ろす。
「なぁんだよかった・・・・。私、そんな人、見たことないから・・・・」
雪まみれの香山が窓と割れんばかりに叩く。

「・・・・・・あの、バイタリアンの方ですか?」
亜希さんがミッキモーさんに質問した。
「僕? いやいや。僕はエイリアンです。 遅れたもんで夕食には間に合いませんでしたが・・・・・・。
一応自己紹介しとこかな。 若い女性もたくさんいることだし。」
そういって、子鹿のようにヨロヨロ立ち上がると、ミッキモーさんは少し改まった調子になった。

「やぁ、僕ミッキモー。 ネズミ派カメラマンさ。 千葉ネズミ公園は専門外だけど、中国ネズミ公園は得意分野だよ。」
冗談のつもりか、一人で笑った。
「やだ、変態じゃん」
女の子達は得体の知れない物と対峙したかのように嫌がる。

「恥ずかしがることはないじゃないか。
確かに、千葉ネズミはかわいいけど、中国ネズミのほうが壮大な感じがするんだよ。
それに、そのうち年を取ったときに、ああ、中国ネズミを頬ズリしたりシャブったりしたいって、きっとそう思うようになるよ。」

僕は真理の顔をうかがった。
軽蔑したような表情しか浮かんでいない。
・・・・・・ってか、ぼそっと「早く地獄行けばいいのに」って言ってる。
「ブタ子、ネズミ食べればー?」
亜希ちゃんが啓子ちゃんを肘でつついている。
「えーやだ。自信ないもの」
激しく首を振りながらも、啓子ちゃんはまんざらでもなさそうだ。

ガチョーーーーン!!

「何や? 今の古いギャグみたいな音は…」
香山さんが驚いて叫んだ。
「私、ちょっと見てきます」
リーさんは財布を取り出し、中身を確認した。
「500円足りない・・・・」
みんなで無視した。

ミッキモーの作ったうっとうしい雰囲気が冷めたようだ。
やがて、奥から連れ出したのか、クボータさんが出てきた。
「一階は、全部の窓割れてるけど、異常はないみたいだ。
 ・・・・・・すみませんがみなさん、ご自分の部屋で何か割れてないかどうか、確かめてきていただけませんか?
窓から香山さんが入ってくるかもしれませんしね」

そりゃ良いや。ぼく達は立ち上がり、木刀片手に二階へ上がった。
二階へ上がると、ぼくはまず真理の部屋に飛び込んだ。
バッグを開けてのぞいただけで、何も異常がないのは分かった。
が、一応香りが残ってないか確認したところで、後ろから真理に鉄パイプで叩かれ、廊下に追い出された。

香山妻(スプリンガー)、ミッキモーさん、そして女の子三人組もそれぞれの部屋から出て来る。
その顔を見れば、何もなかったらしいことは読心術の心得があるから分かる。
やがてぼくの部屋を調べていたらしいリーさんも、半裸で廊下に出てきた。

「みなさん、異常ありませんでしたか?・・・・・・とすると、後は一部屋しかないな。」
そういって、ある扉を見つめる。
あの変質者のような男の部屋なのだろう。
ぼく達は自然とリーさんを取り巻くように立っていた。

「そういえば、あの脅迫状、もしかしたらあの人が書いたのかもね。」
真理が、ぽつりともらす。
「どういう意味?」
「この部屋で何かが行われているのかも・・・・・・」
他の人達には聞こえないよう、ツイッターで語る。

いちいちケイタイ見るのがめんどい・・・・・・
「まさか。それに、まだ9時過ぎだよ? あの脅迫状じゃ、予告時間は書いてないじゃないか」
「そうだけどさ。 だいたい犯行予告なんてのは、天気予報と同じで、大体こんな感じですって出すものでしょ。透、温いビールとか飲んだことあるでしょ?」
こいつ、何言ってんの。

「お客様!出てこい変態!」
半裸のリーさんは、ガンガンと扉を強くノックした。
しばらく待つが、返事はない。
耳を澄ましていると、中から何かが風であおられているような音がする。

「おい、お客!」
リーさんはガンガン扉を蹴りだしたが、やはり返事はなかった。
「やっぱりこの部屋で何かあったみたいですね。」
ぼくは言った。

リーさんはうなずくとぼくの手を握る。
「だめだ。 心の鍵がかかってる。」
リーさんはちょっとだけためらったが、やがてTシャツを脱ぎ始めた。
下は靴下以外身に着けていないらしい。
放送事故を察知して、ドアごとリーさんを蹴飛ばした。

「失礼します」
リーさんはベッドのあたりでうずくまりながら、一応そう言った。
が、室内を見た途端、その部屋がおかしいことはみんなに分かった。
ドアのあったところから、ひどい冷気とともに、一陣の風がぼくたちの間を吹きぬけたのだ。

室内からは、ばたばたとリーさんのTシャツの音と、チラチラ見える中年男性の尻から漏れる爆発音と異臭・・・・

「お客さん!」
リーさんが立ち上がろうとしたので、壊れたドアをブーメランのように投げつけ、リーさんにぶち当てた。
オーナーの意識を断ったところで、部屋の中を見回す。
ぼくの部屋と同じツインの部屋だ。

カポーで泊まれるツインでぼくのツインツイン・・・なんでもない。
開け放たれた窓から吹き込むよくわからないものが、狂ったように乱舞していた。
お好み焼きの上に乗ったかつお節が、吹き飛びそうなほど、ばたついている。
窓側のベッドによくわからないパウダーが盛られているだけで、人の姿はなかった。

「変態さん! 見ーつけた!」
ぼくさんは叫びながら、入り口脇にあるバスルームの扉を開けた。
窓の方から音がした。
振り向くと、香山さんが風に揺れる窓と窓枠に挟まっている。

「窓から出たんじゃないでしょうか?」
ぼくは言ってみた。
「何で? 馬鹿じゃないの?」
リーさんが当然の質問をする。
ぼくにももちろん分からない。

リーさんは立つと風で放送禁止状態になる。
「調べてきます」
ぼくはリーさんの許可を得た。
真理に誰も部屋に入れるなと支持し、奥に進んでいった。

続いてリーさんがTシャツの下を押さえながらあとに続く。
吹き込む雪から顔を守りながら、ぼくは窓にたどり着いた。
窓枠にしがみつく香山さんを蹴り落とした次の瞬間、ぼくは立ちすくんだ。
「・・・・・・何だ、これは」
ぼくは、部屋一点に視線を向けたまま体が硬直したような感覚に陥った。

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