本当に屋根だったのだろうか?
疑いながら上を見つめていると、吹雪の先に星が見えるような気がした。
慌ててリーさんが屋根を戻していると、自転車の近づいてくる音がした。
ヘッドライトだ。
急速に近づいてきて、チェーン音も聞き取れるようになった。
このあたりには他に家もないし、どうやら遅れてきた客のようだ。
案の定、玄関外側のドアと衝突してドアごと木端微塵になり、慌ててリーさんが修理しだした。
やがてリーさんを避けて玄関から髭面の人が入り、二重になったドアの内側のカギを閉めた。リーさんが締め出された。
「すいません!ミッキモーですが!どなたかいらっしゃいますか!」
ガマ声がこちらまで響く。
「ミッキモーさん、ですね? 開けてくれませんか。」
リーさんが、内側のドアを叩きながら言う。
大柄な男の客は仕方なくロックを外した。
リーさんは、倒れこむように中に入ると、慌ててコーヒーを持ってきてほしいと言った。
「いやー、何でそんなとこに居たんですか? 馬鹿なんですか? まるで役に立たないんですか・・・?」
ミッキモーと呼ばれた男の人は、フロントで記帳しながら、喋り続けた。
ミッキーマウスみたいな名前に似合わぬ、ひげ面の、いかにも山男と言った感じの人だった。
「夕食はおわりましたんですが、おひねり程度のものならご用意できます。お作りしましょうか?」
リーさんが尋ねる。
「あ゛ぁ゛!?・・・いえ、途中でエンジンとかぱくつきましたから、お腹は空いてません。おかげで積み荷のチャリで来ましたから、何かあったかい飲み物でもいただけると、うれしいんですが」
「コーヒーとか紅茶みたいなものがよろしいですか?スープもありますが?」
「それじゃあ、紅茶を下さい」
「じゃあ、駐車場の横の自販機で買ってきて下さい。飲むのはここでも部屋でも構いませんので・・・」
「あ、やっぱり結構です」
ミッキモーさんはちらりとこちらを見てうなずく。
何の合図なんだ?
「そうですか。じゃあ、これが鍵です。知恵の輪を解かないと使えなくなってますが、気にせず上がってください。」
リーさんに鍵を渡されるとミッキモーさんは自転車のサドルだけ担いで、二階へと昇って行った。
鳩時計が一回だけ鳴る。
8時半だ。
「あ、ゴメン。ビールは外で冷やしてるから、勝手に飲んでくれていいよ。」
ぼくらに声をかけると、リーさんはまた食堂に戻っていった。
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