第6章 就職先は生涯賃金で決める
(2)
「女房のスプリンガーや。……こっちは将来奴隷の真理ちゃんとその御主人の透やそうや」
更に昇格していた。
真理は文句を言う気もなくしたようだった。
「うっす」
「ナンモハムスニダー」
スプリンガーさんににっこり笑いながら、香山さんの頭に腰掛ける。
「おいしいお皿でしたわ」
「お世辞じゃないでしょうね」
そう言いながらも、リーさんはまんざらでもなさそうな表情だ。
「お世辞に決まってるじゃないですか、馬鹿なの?」
「奥さんにそう言って頂けると、自信がつきます。」
ひどく重苦しい空気が流れた。
「なんか頭重いんやけど、ビールかなんか、もらえるかな!」
その空気をいらだたしげに破ったのは、香山さんだった。
「ええ、じゃあ君たちも飲むか?」
リーさんが、その場をとりつくろうように聞いて来る。
ぼくは真理と顔を見合わせようとしたが、振り向いてくれなかった。
「じゃあ、ちょっとだけ」
彼女が右腕と左腕を大きく広げて示した。
…こいつ、何てマリノサウルス?
「この乾いた心を潤せるくらいあれば十分です」
キマったと思った。
「何ナルシストみたいなこといってるのよ、その顔面で」
真理に怒られた。
「……たまには言わせてよ」
泣きながら訴えた。
突然、窓の外でどさっと何か雪のようなものの落ちる音がする。
「わっ!・・・やば、パンツ換えなきゃ」
ぼくのズボンが湿ってるのを見て、真理はくすくすと笑った。
「屋根が落ちただけよ」
「何だ、屋根か。」
見晴らしが良くなる代わりに、寒気がした。
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